子供たちの未来のために―児童福祉の現場の実態とは?

社会

2018/12/21

『漂流児童――福祉施設の最前線をゆく』(石井光太/潮出版社)

 東京都港区の南青山で、児童相談所を含めた児童福祉に関連した複合施設の建設計画に対して、一部の住民が反対しているという。個人的には、この手の反対の声に共感していた時期もあるのだけれど、私の地元に葬儀場ができる際に起きた反対運動がテレビで取り上げられて紹介され、反対派住人たちが揃いも揃って近隣に土地を複数持っているような大地主だったため考えを改めた。大阪市北区の高層マンション内に児相を設置する計画が、マンション住民の反対によって中止になったのも、資産価値が落ちることを嫌ったからではないかと想像する。しかし、子供に関わる施設ができるのを反対する資格があるのは、一度も子供時代を過ごしたことの無い、初めから大人として産まれてきた人だけなのではないか、と『漂流児童――福祉施設の最前線をゆく』(石井光太/潮出版社)を読んで思う。

 本書は、これまでも児童福祉の問題を取材してきた著者が、児童養護施設や少年院、フリースクールに障害児入居施設といった、子供たちのセーフティーネットに焦点を当てたものである。中には子供が産まれる前、妊婦を支援するNPO法人もあり、そこを訪れる妊婦は何かしらの問題を抱え、お産の前から赤ん坊を特別養子縁組によって養子へ出すことを決めている。というのも彼女たちは、高校卒業を目前に妊娠した女子高生などで、同法人の代表者は「常識の通じない子がすごく多いのよ。時には見捨てたい気持ちになるけど」と漏らしながらも、「何より子供の幸せが一番です」と取材に答えている。

 非行少年らが暮らす全寮制の施設である児童自立支援施設には、敷地内に学校も設置されている。著者が取材に訪れた施設では「小舎夫婦制」という制度をとっており、いわゆる寮長となる職員の採用試験は、夫婦で受けるのが条件だそうだ。それは、生徒たちの両親の代わりとなって疑似家族をつくるためだ。つまり寮長は、24時間「手本となる言動を示さなければならない」わけで、そんな生活に耐えられるのか、著者は母親代わりとなる寮長に尋ねている。特に生徒たちの中には両親の離婚を経験している者も少なくなく、夫婦喧嘩が生徒たちにとってマイナスになるのではないかという点について寮長は、「私たち夫婦がケンカした後に仲直りしていく過程を見せる」ことも大切だと思っていると答えていた。

 16歳以上で殺人などの重大事件を起こした者は、更生施設である少年院ではなく、刑罰を目的とした少年刑務所に収監される。取材に応じた教育官は、受刑者一人ひとり事情が違うと前置きしたうえで親の問題と断じている。それは「『バカ親』と『親バカ』はまったく違う」というもので、前者が虐待やネグレクト、後者は子供の気質を無視して接することを指すという。被害者のことを考えれば、未成年だろうと加害者に厳罰をと思ってしまうが、子供は親を選べないことからすると自分が事件を起こさなかったのは、偶然の積み重ねのおかげではないかとも思えてくる。

 ところで、本書には児相の話がほとんど出てこない。出てきたとしても、児相を介して他の施設に子供たちが移されるという流れだ。おそらく多くの人が児童相談所というと児童虐待を連想し、最後の駆け込み寺のようなイメージを抱いていることだろう。しかし、他の施設や団体との連携をはかるのが本来の業務であり、それこそちょっとした日常の育児の相談をするのが児童「相談所」なのである。つまりは最初の窓口であり、南青山で計画されているような、児相を含む児童福祉の複合施設というのは実に理想的な形態だし、児相を作らせなかった高層マンションに住む子育て世帯は大きな損失をこうむったと云える。願わくは、本書を通して児童福祉のための施設が身近にできることを受け入れる人が増えてほしいし、私もまた歓迎したい。

文=清水銀嶺