共通点は“子ども”だけ。一筋縄ではいかない幼稚園ママ友の世界

文芸・カルチャー

2019/1/4

『ランチに行きましょう(徳間文庫)』(深沢潮/徳間書店)

 好きな場所で、好きな人とだけ関わって生きていけたら幸せだが、中々難しいのが現実だ。愛する人と結婚しても、相手の家族や親戚が素敵な人ばかりだとは限らないし、職場にいる人全員と気が合う! なんて奇跡は、恐らく滅多に起こらないだろう。

 筆者は母親ではないので正確なことはわからないのだが、「ママ友」なんて、特に大変なのではないだろうか。

 自分だけでなく、子供の人間関係も考えねばならないため、嫌な思いをしても、さっさと去るわけにもいかない。彼らは一体、どんな人間関係を構築して、何を思って生きているのだろう。

 深沢潮の『ランチに行きましょう(徳間文庫)』(徳間書店)は、5人のママ友たちの交流を描いた小説である。

 彼らは、同じ幼稚園に子供を通わせていて、幼稚園バスの送迎場所が同じことがきっかけとなり、ランチに行くようになる。

 しかし、当然のことながら、5人の母親は、年齢も、学歴も、家族構成も、年収も、そしてもちろん生き方も全く異なる。共通するのは「子供」だけという状況の中、それぞれの人生が交錯する様子が、実に人間くさく描かれているのだ。

 彼女たちは、出会った当時は、「幼稚園ママ」としての顔と、裏の顔を完全に使い分けていた。

 例えば、丸顔で、タレ目、柔らかい雰囲気で、当たり障りのない会話ができる恵子。彼女はいつも笑顔のお面を顔にかぶせているのだが、心の中では、生協の若い配達員に夢中になっていた。

 また、内科医として働くシングルマザーの秋穂。彼女は訳があり、離婚していることを周りに隠している。他のママとも距離を置いていた。

 そして、4人にずけずけと物を言い、ママ友の関係にも強くコミットしようとするリーダー格の綾子。彼女は実は、連れ子がいる者同士の再婚で、関係が上手くいってないことに不安を抱え、アダルトな内容のブログを書くことで、寂しさを埋めようとしていた。

 他にも、スピリチュアルな世界に夢中になる千鶴や、夫のモラハラに耐え切れず、元恋人と関係を続ける元モデルの由美が登場する。

 だが、5人のママ友の関係は、章を進むごとに、変化していく。

 秘密にしていた家庭内での様々な問題が、唐突に明るみに出ていく中で、ママ友同士で助け合い、同じ年頃の子供を持つ者同士でしかわかりあえない悩みを共有するようになるのだ。

 ただし、他のママたちのステータスに対する憧れや嫉妬は完全になくなったわけではなく、心の中で相手を見下している場面では、ヒヤリとさせられたのだが……。

 本書は、主役が章ごとに異なるのだが、全てのラストが「ランチに行きましょう」の一文で結ばれている。それは時に、感謝の意味を持つこともあれば、仲直りや、怒りを孕んだ言葉として表現される場合もある。

 彼女らの関係は、センシティブな問題を多分に孕んでおり、ママ友の集まる場所が、生易しい環境ではないことは、読んでいてひしひしと感じ、正直怖くなった。

 しかし、希望や優しさが全く存在していないわけでもない。それは、ママ友関係だけでなく、相互理解が必要な場所の全てで当てはまる事実でもあり、人間関係において、一体何が大切なのか、改めて考えるきっかけとなった。他者との関係で悩む全ての人におススメだ。ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ