4回泣ける!! 葬儀場で奇蹟が……この冬を最高に温める『ほどなく、お別れです』

文芸・カルチャー

公開日:2019/1/9

『ほどなく、お別れです』(長月天音/小学館)

 大切な人もいつかは亡くなる運命にある。残酷な事実かもしれない。だからこそ今を生きる間に、大切な時間をいっぱい楽しみたい。一緒に笑って泣いて、ときにはケンカして、仲直りして、同じ時間を歩みたい。どこまでも。ずっと向こうまで。

 でも、できないときもある。突然お別れしてしまうときもある。残酷なことに、どれだけ悲しくても、どれだけ悔いが残っても、大切な人とお別れした後はもう会えない。

『ほどなく、お別れです』(長月天音/小学館)は、ちょっと不思議な力を持つ就活中の女子大生・美空と葬儀場「坂東会館」で巻き起こる切なくて温かいストーリーを描いた小説だ。

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この葬儀場では、奇蹟が起きる。

 これは書籍の帯に書かれた紹介文の一節。本作で描かれる3つのストーリーそれぞれに奇蹟が起こり、最後に添えられたエピローグで家族の愛情を感じる。「3+1回泣けます」と記された帯の通り、読んだ人は胸が熱くなるはずだ。

 これを証拠づけるように、“目利きのプロ”である全国の書店員さんも本作を絶賛! 次のようなコメントが寄せられている。

「大切な人を亡くした時、ずっと思い続けることが愛だと思っていた自分に、愛ある別れは必要だと、この作品は教えてくれた」(ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん)

「坂東会館のお葬式は、旅立ちを迎えるその人の、生きた道を最後に照らす、暖かい光でした」(平和書店TSUTAYAアル・プラザ城陽店 奥田真弓さん)

「自分が経験した“お葬式”や、あちらに見送った身内のことが重なり、涙が止まりませんでした。『ほどなく、お別れです』というタイトルから『しばらくしたら、また会えるね』という思いが胸にあふれてきます」(ブックランドフレンズ 西村友紀さん)

 また、『神様のカルテ』で知られる医師で作家の夏川草介氏は、

「逝く人のそばには、送る人がいる。これは、残された人々の祈りの物語です」

とコメントしている。

 胸を温め、心をしっとりと癒してくれる本作のあらすじを少しだけご紹介したい。

 主人公である清水美空は、就活がうまくいかず苦しんでいた。いつか働いてみたいと希望していた不動産業界にフラれ続け、大学の就職課に居づらくなり、孤独な戦いを続けていた。ちょっと疲れていた。

 そんなとき、1件の電話がかかってくる。相手は、半年前から就活のために休んでいたバイト先、坂東会館だ。頼りになる大好きな先輩に誘われて、少しだけ現実に休憩したくなった美空は、葬儀場のバイトに復帰する。

 そこで出会ったのが、葬儀を仕切る漆原という男と、光照寺の若い僧侶の里見道生(さとみどうしょう)だった。

 この3人、特に美空と漆原の初対面の印象は良くなかった。けれども、ちょっと不思議な体験が3人を強く結びつけることになる。それは美空が不思議な力を持っていたからだ。

 そんな美空には、美鳥という名前の姉がいた。けれども2人は会うことがなかった。なぜなら美空が生まれる前日に亡くなったから。接点のない姉妹だったが、美空はいつも姉を感じていた。何かがあるたびに夢に出て知らせてくれるからかもしれない。坂東会館でバイトをしているとき、“亡くなった故人の姿が見える不思議な力”を持ったからかもしれない。とにかく美空は一度も会ったことのない姉が大好きだった。

 3人は不思議な体験をする。

 妻を亡くした夫が喪主となって開いたお葬式に、会葬者として訪れた臨月の女性。美空の前に儚げに佇む彼女は、なんと遺影に飾られた妻本人だった。なぜか異様に大きくて奇妙に軽いバッグを提げている。美空が恐る恐るそのバッグを夫に手渡すと、泣きながら抱きしめたのだった。夫婦にどんなエピソードがあったのか…。

 病気がちの小さな娘を亡くした家族。全員が悲しみに暮れている。とくに母親の悲しみは激しく、立ち直れないほどだった。しかし亡くなった女の子本人は“死”に気づいていない。うすぼんやりとした儚い姿で元気にお葬式についてきてしまった。胸を痛めるこの場面で、死んだことを納得させるために美空がとった行動にきっと声を詰まらせるだろう。憔悴しきった母親を立ち直らせるため、弔電の後に父親が贈った言葉に、きっと目頭を熱くするはずだ。

 この不思議なストーリーは、本作をめくったはじめのページから、エピローグの最後まで、ずっと続いていく。故人を見送る人々の切なくて温かいエピソードが、読み手の心に涙を滴らせて優しく花開く。

 大切な人とお別れした後はもう会えない。残酷な事実だが、もう1つ事実がある。大切な人は目の前からいなくなっても、ずっと一緒にいる。ずっと心の中にいるはずだ。もしかすると、いつも傍に寄り添っているかもしれない。たとえたった一度だけでも、一緒に笑って泣いて、ときにはケンカして、仲直りして。共感して共有した記憶がある限り、その人は永遠に私たちと共にいるのだ。

文=いのうえゆきひろ