自尊心まみれ、陰キャ、童貞…青臭い青春が蘇る! 「笑い飯 哲夫」が生み出す極上のストーリー

文芸・カルチャー

2019/1/8

『銀色の青』(笑い飯・哲夫/サンマーク出版)

「畑違いの人間が気安く文学なんて書きおって…」という前評判を、気持ちがいいくらいに覆し輝いた作品として、又吉直樹の『火花』は記憶に新しい。そして昨年10月に刊行された、人気お笑いコンビ「笑い飯」の哲夫による書下ろし小説『銀色の青』(サンマーク出版)もまた、そんな予感を抱かせる作品だ。

 本作は、純文学に精通し三島由紀夫作品を愛読するという著者が書いた青春小説。「鳥人」「奈良県立歴史民俗博物館」などなど、これまで何回も笑い飯の漫才に魅せられてきた私は、期待に胸を膨らませながらページをめくっていった。

 40歳の清佐(きよすけ)が、高校時代に書き溜めた自叙伝風の日記を発見して読むという形で進行する物語。ルーズリーフに書き溜められた青春の悩み。傷つきやすい自尊心を抱えながら、残酷な現実と向き合うというストーリーだが、その物語の重要なキーとなるのが「100円玉」という点がまたおもしろい。

 ルーズリーフに綴られた文に登場する清佐は進学校に通う高校2年生。丸坊主の野球部員だが、ファースト志望の補欠であり、クラス内のヒエラルキーも決して高い方ではない。そんな彼はある日、野球部エースの同級生に野暮用で100円を貸すことになる。

 彼は自分よりも何倍も逞しく、女子からもモテる存在。100円を受け取った彼は、「オッケー」とだけ軽く言って立ち去ってしまう。「オッケーとはなんや、ありがとうはないのか」…内心ではそんな憤りを感じていても、繊細で小心者の清佐はそれを口に出せない。そしてその後何日経っても、貸したつもりの100円は返ってくる気配もなく…。

「ナメられたくないから取り返さなければ」という思いを持ちながらも、反面では「100円ごときにこだわる小さいヤツとは思われたくない」と頭を悩ませる清佐。「たかが100円で、アホやなあ」と一笑に付したくもなるが、この繊細で複雑な自尊心が、誰しも味わった青春時代の匂いを漂わせていて、とにかく同情できる。

 物語は恋愛や親友との関係にも及んでいくが、この100円玉は最後の最後まで絡んでくる。100円は100円の価値を遥かに越えて、清佐自身の「あり方」にまで昇華するのだ。そしてラストシーンでは、その100円がとんでもないどんでん返しを起こすことになるのだが…ここでは言及は避けておくのでぜひご自身で確かめて欲しい。

 本作の中で私が特に心を掴まれた点は、「お母さんのお弁当」が頻繁に登場することだった。優しい主人公・清佐は傷つきやすく、悩みゆえに学校から足が遠のいてしまう。お母さんの「いってらっしゃい」に答えず無視して家を出てしまったことを後悔し、弁当を食べながら涙を滲ませる。そんな青春の匂いがとても愛おしく感じられた。

「あの頃のあの気持ち」が痛いほど蘇る物語であると同時に、思春期の主人公を通して「人間の本質」を描き出した本作。実にさまざまな面から胸が締め付けられ、食い入るように読んでしまうはずだ。

文=K(稲)

■あわせて読みたい:笑い飯 哲夫が選んだ、次の時代に残したい「平成」の1冊は?