安心して任せられる医師って? 看護大学の講義から学ぶ医師とのコミュニケーション術

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公開日:2019/1/31

『死にゆく患者(ひと)と、どう話すか』(國頭英夫:著、明智龍男:監修/医学書院)

 病院で診療を受けて医師と話す時、医師が何を言っているのか分からず、不安になる時がある。医療用語が分からない上に、質問をしたくても、その質問すらうまく出てこない。医師の態度や話し方もぶっきらぼうで、こんな人に自分の体や命を預けていいのだろうか。ほかの医師の方が安心では? みんなこんな態度なのだろうか――そんな医師とのコミュニケーションの不安を解消するヒントが、1冊の本にあった。『死にゆく患者(ひと)と、どう話すか』(國頭英夫:著、明智龍男:監修/医学書院)だ。

 著者は日本赤十字社医療センター化学療法科部長で医師の国頭英夫氏。国頭氏が教鞭をとる日赤看護大学での講義をまとめた内容だ。

 患者への余命宣告をどう伝えるか。末期がん患者の治療方針はどうするか。医師は常に、命の瀬戸際に立つ患者とのコミュニケーションが求められる。

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 医師と患者、患者の家族との関係性、患者の病状、性格、背景。さまざまな要素が絡み合う状況での答えのないコミュニケーション。講義では具体的な事例を挙げながら、医療従事者としてどう話し、振る舞うのかを考える。

 本来なら看護師の卵が患者を相手としたコミュニケーションを学ぶための講義だが、本書は誰にとっても読みやすく、分かりやすい。大学1年生に向けた基礎ゼミでの講義であることもそうだが、医療ドラマ「白い巨塔」や、「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」といったドラマのワンシーンを事例として挙げているので、とっつきやすいのだ。

 例えば「白い巨塔」では、俳優の唐沢寿明演じる財前教授が患者にがんを告知するシーンを挙げ、医師としての考え方を説明する。

◆財前教授の考え方:パターナリズム

 医療用語を多用して話す財前教授との面談にうろたえる患者。財前教授は「助かりたいのなら、手術をする以外にない」と一方的に治療方針を決定し、押し切った。

「患者や家族は素人で、どうせ分からないのだから、治療方針なんかは医者がみんな決めてやるべきだ、という考え方ですね」

 一方で、パターナリズムと対照的な考え方についても触れている。

「『インフォームドコンセント』、つまり患者本人にきちんと説明して、納得してもらった上で、治療などに同意をもらう、それからでないと診療行為はしてはならない、という考え方

 もしあなたや家族が大きな病気にかかったとき、どちらの考え方を採用したいだろうか。

 ドラマのシーンをもとに医師の考え方を学べるため、本書を読んでいると患者と話す時の医師の頭の中を覗いているような気分になる。自分が医師と話をする場合にも大変実用的で、役に立ちそうだ。

 医師と患者のスムーズなコミュニケーションは、完治に向けた強固な礎となる。自分自身や家族が入院したとき、手術が必要になったときに、「担当医の考え方はパターナリズム寄りかもしれない」など、本書の内容を思い出すだけでも、不安な気持ちが軽くなるかもしれない。

文=箕浦 梢