事故、虐待、いじめから「小さな命」を救うために――大人たちが知っておくべきこと

社会

2019/1/31

『「小さないのち」を守る 事故、虐待、いじめ……証言から学ぶ予防と対策』(朝日新聞取材班/朝日新聞出版)

 子供が犠牲になる事件や事故を報道で知ったとしても、危険の予知というのは難しいものだ。『「小さないのち」を守る 事故、虐待、いじめ……証言から学ぶ予防と対策』(朝日新聞取材班/朝日新聞出版)は、子供を亡くした遺族の証言はもちろん、専門家の協力を得て司法・行政解剖の記録(約5000件)を分析し、その対策をまとめている。

 本書は赤ん坊のうつぶせ寝による窒息事故から、よちよち歩きができるようになって起こりうる転落事故、あるいは食事における誤嚥(ごえん)事故など、年代別に潜んでいる危険を追っていく構成なので自分の子育ての状況に合わせて読んでいけるが、やはりすべてを読み通してほしい。

 たとえば、7歳の男の子がドラム式洗濯機に閉じ込められて亡くなった事故は、2015年に国内で初めて大きく取り上げられたが、実は前年とその前の年にも3件起きていたそうだ。それらの事故は「一般的に家庭内の事故は公表しない」という警察の方針によって公表されなかったという。ベランダからの転落事故などもそうであるように、本書では「責任は親にあると考えている限り、事故予防にはつながらない」と指摘している。

 交通事故に関しては、「歩行中の交通事故の死傷者は小学1年が際立って多い」そうで、親から離れての行動が増えるのに対して外歩きの経験が浅いのが原因と考えられるという。また「12歳以下の死傷事故、4分の1が自転車」なのは、行動に慣れて確認を省略したり、危険と分かっていることを自分だけは大丈夫とやってしまったりするから。中学生の男子が、「大人や高校生もやっているから、いいのかなと思って」と取材に答えているように私達自身が模範を示さなければならないだろう。

 2011年に校庭を走った小学6年生の桐田明日香という女の子は、直後に倒れて意識が戻らないまま翌日に息を引き取ったのだが、学校に自動体外式除細動器(AED)が置いてあるのにもかかわらず、教師らは「呼吸がある」と判断して救急車が到着するまで救命措置を行わなかったという。その呼吸は心肺停止した後に起こる「死線期呼吸」だった可能性があり、この事件を教訓に教育委員会が作成した「人が倒れたときの対応マニュアル」では、呼吸や脈拍などで判断するのではなくAEDを使うと定め、それを「ASUKAモデル」と呼ぶようになったそうだ。本書には載っていないが、2017年に新潟県の加茂暁星高校で野球部の女子マネージャーが倒れたさいに、監督が「弱いが呼吸があると判断した」ことから適切な処置をせず死亡した事件がある。このASUKAモデルの事例を知っていれば、彼女は助かったかもしれない。

 ある程度のパターン化が可能な事故と違い、難しいのは家庭の事情や思春期のSOSのキャッチの仕方。母親の再婚相手から虐待され、小学5年生のときに「お葬式はしなくていい」と書いたメモを持って資料室にいるところを担任に見つかった女の子は、「親がそんなことをするはずがない」と言われ、6年生になって自ら児童相談所に駆け込んだという。一方、もし本人から悩みを打ち明けられたとして、「支え手」を「どう支える」かも課題である。本書では、「一生懸命に支えようとするあまり、自分の生活に支障が出たり、体調を崩してしまったりする」と注意喚起し、相談の応じ方についても学ぶことができる。

 起こる悲劇は一人ひとりの保護者にとってみれば「まさか」だが、一人が人生で学べる知識も実際に経験できることも限られており、それらを蓄積して常に状況に合わせ瞬時に判断し実行することなど不可能だ。だからこそ、一人でも多くの人が本書を読み、断片的にでも覚えて友人知人へと直接的に、あるいはSNSを通じて教え合うことができれば、それは網の目のようになりセーフティーネットとして機能させることができるのではないだろうかと、本書を読み終えて思う。

文=清水銀嶺