淫行をネタにゆすられる人気俳優、「いいね」がほしい若者を煽るデスゲーム…常に現代を映し出すIWGPシリーズ最新刊

文芸・カルチャー

2019/2/10

『池袋ウエストゲートパークXIV 七つの試練』(石田衣良/文藝春秋)

 一日に何度も手にするスマートフォン。あなたはこの小さな電子機器を「怖い」と感じたことはないだろうか?

 筆者はライターなので、SNSを駆使して自分の記事を宣伝することが多いのだが、Twitterを見る度に、誰かが炎上していて「次は自分の番なのでは……」と恐ろしくなる。

 一円にもならなくとも、「いいね」はたくさんほしい。しかし、不倫やパワハラ問題で、公開処刑のごとく「善悪」がネット上で簡単に判断されている現実を見るにつけ、やるせない気持ちになるのだ。誰かを極限まで追い詰めて得られる一瞬の快楽は、残酷極まりない。

 昨年9月、20年以上にわたって続く石田衣良の大人気シリーズ最新刊『池袋ウエストゲートパークXIV 七つの試練』(文藝春秋)が発売された。

 今回も、池袋で果物屋の店番をしながら、コラムニスト兼“トラブルシューター”として活躍するマコトが、現代を色濃く映す事件の解決に挑む様子がテンポよく綴られている。

 例えば、「泥だらけの星」は、未成年者との飲酒と淫行でゆすられるイケメン俳優・イッキの物語だ。マコトは、池袋で長期政権を築くギャング“Gボーイズ”の王さま・安藤崇と共に、悪徳芸能プロダクションの罠にかかった才能豊かな俳優を救おうと、意表を突く方法で反撃に出る。

 有名人の名声とイメージをズタズタに傷つけ、社会的に抹殺しようと企む事件は、現実でも起こる。

酸っぱい泥水のなかでのたうちまわるのは、明日のあんたかもしれないのだ。まあ、人のスキャンダルは上品にたしなむ程度にしておいたほうがいい。

 そうつぶやいたマコトの真意を、ぜひ確かめてみてほしい。

 また、表題作となった「七つの試練」は、SNSに煽られる若者たちの物語だ。

 絶対に個人にたどりつけないIDで完璧に正体を隠した主催者は、若者たちに暴力や窃盗や飛びおりなどの課題を与え、証拠写真をサイトにアップさせる。「いいね」がほしい若者の心をくすぐるデスゲームを行うのだ。

 暴走する若者たちを止めるために、ネットが苦手なマコトが、訳があってゲームに参加する女子中学生と共に奔走する。麻薬のような酩酊と万能感をもたらす「いいね」にふり回される若者たちのことを決して笑えない展開に、大人の筆者もドキリとさせられた。

 本書は他にも出会いカフェに現れる首締め男の話や、高級マンションを舞台にした親族監禁の物語も収録されている。また、似顔絵を描くシュンや、北東京一のハッカー・ゼロワンなど、懐かしの面々が登場するのもファンにはたまらなく嬉しい。

 マコトは今回も「どこかおかしい」世の中に絶望も期待もせず、フラットなまなざしで真実を見極め、強くしなやかに生き抜いていた。誰が相手でも態度を変えず、移り変わりの早い世の中にひるむこともない。彼ほど様々な立場の人に好かれ、頼りにされる人はいないと思う。

 このシリーズを読むと、世の中に希望がほとんど持てなくとも、個人に残された力は、まだまだ捨てたものではないと思えるのだ。今、どんな気分で生きるかは、自分自身で決められる。地にしっかり足をつけ、前を向いて軽やかに歩こうと励まされる小説である。

文=さゆ