推しの出演舞台を24回見て号泣!? 知られざる女子オタの生態を描くコメディマンガ

マンガ

更新日:2019/2/9

『今日もよろしく諭吉さん』(金黒/講談社)

「同じCDを何十枚も買うって意味わかんないよね」

 いわゆる“AKB商法”の存在が広く知れ渡った後、そんな会話は日本中で100億回くらい繰り返されてきただろう。

 一方で、オタクが散財する対象はアイドル以外にも無数にある。その中には女子オタが中心のジャンルも多い。そして、その生態は男性のオタク以上に一般には知られていない。

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 マンガ『今日もよろしく諭吉さん』(金黒/講談社)が描くのは、2次元アイドルや若手俳優、同人誌などにジャブジャブと金を使う、そんな20代の女子オタの生態だ。

 特にオタクではない筆者が、本書を読んだ率直な反応は、まず「戸惑い」だった。

「推しの2次元キャラからもらうプレゼント」を自分で選び、自分で自分に指輪を買うアヤ。推しの俳優が出演する舞台を24回も見て、24回目でも号泣するマナミ…。このマンガでは、浪費オタの行動がディテールまで描かれるので、その思考回路を一応は理解できる。だが、「いや、だからって、そんなにカネ使う…?」という疑問は、やはり簡単には拭い去れない。

 だがこのマンガの秀逸なところは、主人公の女子・ハナが、非オタであるということ。彼女が浪費オタが集うシェアハウスに入居し、同居人たちへの理解を徐々に深めていく…という物語なので、われわれ読者が浪費オタの生態に驚愕・困惑する場面では、ハナも一緒に驚愕・困惑してくれる。そのためオタクの知識がない人でも、物語にすんなりと寄り添えるのだ。

 そしてこのマンガは、非オタが感じる率直な疑問も次々とぶつけてくれる。推している若手俳優について、「可愛い甥っ子のようなもので恋愛感情はない」と話すマナミには、「それ本当なの?」と食い下がる。また、彼女たちが推しに入れあげる感情は恋の熱病のようにも見えるが、それは現実の恋愛とは何が違うのか…ということも真摯に考察していく。

 そんな本書を読み進めるうち、最初は戸惑いしか感じなかった浪費オタに対し、筆者はときに共感や尊敬の感情も覚えるようになっていった。

 なお本作の作者の金黒さん自身は、「オタクではあるものの、マンガのキャラのようにジャブジャブと散財するタイプではない」とのこと。ハナが浪費オタへの理解を深めていく過程は、金黒さん自身が彼女たちへの理解を深めていく過程でもあるわけだ。

文=古澤誠一郎