泣いて説得しても止まらない“ギャンブル依存症”――抜け出すにはどうすればいいのか?

社会

公開日:2019/2/19


 もし以下の症状に本人や家族が悩まされていたら、ギャンブル依存症を疑いたい。

・ギャンブルのために学校や会社を休むことがある
・ギャンブルのために借金をする
・「やめよう」と決心して家族と約束しても、やめられない
・ギャンブルのために万引きなどの違法行為をしたことがある
・負けた分をとり返すまで、賭け続ける

 ギャンブル依存症は病気だ。勝ち負けを深追いし、借金を重ね、家族に嘘をついてまでギャンブルを続けて、生活を破たんさせてしまう。かつては「本人の意志の問題」と考えられてきたが、最近では脳の「報酬系」に異常が起きている病気として理解され、医療機関やギャンブル依存症患者をサポートする環境が少しずつ整ってきた。

『ギャンブル依存症から抜け出す本』(樋口進:監修/講談社)は、ギャンブル依存症のメカニズム、医療機関の探し方や相談の仕方、診察と治療の流れ、生活上の注意点などをあますことなく解説する。監修は、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長であり、依存症対策全国センター長の樋口進先生。

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 本書よりギャンブル依存症への対処法を少しだけご紹介したい。

家族が泣いて説得してもギャンブル依存症は止まらない

 依存症までいかなくとも、ギャンブルが好きな人はたくさんいる。「ギャンブル好き」と「ギャンブル依存症」の違いは何だろうか。一言で説明すると「コントロール」だ。

 ギャンブル好きにとって、ギャンブルはあくまで娯楽。ほかにも釣りやスポーツなどの趣味を持ち、生活の一部の中でギャンブルを楽しむ。多少損をしても小遣いの範囲で収まるので、生活が崩壊することはない。

 しかしギャンブル依存症は、一度賭け始めると止まらない。ギャンブルが生活の中心となり、どんどん使うお金がエスカレート。やがて借金をするようになり、仕事や家庭生活が崩壊していく。それでも自身の意志では止められないのがギャンブル依存症で、やがて万引きや横領などの犯罪に手を染め、最終的に自暴自棄になって自殺まで考えてしまうことも。

 ギャンブル依存症が「病気」と呼ばれる理由は、脳に異常が起きているせいだ。はじめはただのギャンブル好きでも、勝ち負けを繰り返すと脳の反応が徐々に変化していく。やがて意思決定などに関わる前頭前野の機能が低下。ギャンブルに関するものに強く反応するようになり、ほかの娯楽や趣味は反応しにくくなる。さらに脳には「側坐核」と呼ばれる場所があり、快感を得るとドパミンを放出する「報酬系」の役割を持つ。依存症患者はこの場所に異常が起こり、少々の勝ちでは満足できず、より大きな勝ちを求めて賭けるお金や回数を増やしていく。

 ギャンブル依存症は脳に異常が起きているため、自分で自分のコントロールができなくなっているのだ。そのため家族がたとえ泣きながら「ギャンブルをやめて!」と訴えても止まらない。本人が心から反省して気持ちを切り替えても、脳の異常は起きたままなので、いずれ再発してギャンブルに手を出してしまう。こうして家族や周囲の人々は何度も裏切られ、ギャンブル依存症とそれに関わる人々みんなが憔悴していく。

ギャンブル依存症を抜け出すには家族が主体的に動く

 ギャンブル依存症になると正常な判断ができなくなる。たとえ借金を背負っても「ギャンブルに勝てば取り返せる!」と本気で考える。さらにどんな状況に追い込まれていても、本人はギャンブルを悪いものと思わず病状を認めない傾向にある。病気の治療に消極的なのだ。

 だからギャンブル依存症を疑った時点で、家族が主体的に動くのがベター。公的機関や医療機関に問い合わせよう。

【精神保健福祉センター・保健所】
 これは心の健康の相談業務などを行う公的機関だ。各都道府県や政令指定都市に設置されており、本人や家族、関係者が相談できる。近隣の精神保健福祉センターに依存症専門の相談員がいる場合には、受診や治療、生活面での注意点について詳しく相談できる。

 公的機関の中には、依存症の家族教室を開催するところもある。依存症という病気の基礎知識や生活面での注意点が学べる勉強会のようなもので、「まだ本人が受診を嫌がっていてまずは家族だけ参加」というのも可能。

【医療機関】
 専門の医療機関で治療を開始する場合、「通院治療」と「入院治療」の2種類がある。通院治療の場合は、カウンセリングや認知行動療法がメインとなり、週に1回程度通院する(治療方針や通院回数は各医療機関によって異なる)。患者本人が繰り返し自分の行動を見直すことで、依存症の改善を図るのだ。

 しかし依存症の程度が重症の場合は、入院治療を選択することもある。うつ病などを併発していた場合も入院治療を勧められることがある。ギャンブル依存症患者はアルコール依存症やニコチン依存症などを併発することがあるほか、うつ病や不安症を一緒に診断される人もいるのだ。

 ギャンブル依存症は本人の意志の力だけではどうにもならないことがほとんど。まずは医療機関での治療を選択しよう。しかし依存症は治療を受ければすっきり治るものではなく、治療中も治療後も本人が病気と向き合い生き方を見直していく必要がある。

 久里浜医療センターが2017年度に行った全国調査によると、日本人のギャンブル依存症の生涯有病率は3.6%。人口に換算して、日本に320万人もの依存症経験者がいる計算になる。これだけの人々がギャンブルに狂い、家族たちが心配で疲れ果てた現実があるのだ。ギャンブル依存症は恐ろしい病気であり、決して私たちに無関係なものではない。

 もし家族に依存症と疑わしき人がいて深く悩んでいるときは、ぜひ本書を手に取ってほしい。この本には病気の解説と、病気とどのように向き合って生きていけばいいのかアドバイスする内容が記されている。手遅れになる前に行動を起こしてほしい。

文=いのうえゆきひろ