娼婦、詐欺師、狂戦士…監獄で囚人の英才教育を受けた少女は“シャバの普通”馴染めない!

マンガ

公開日:2019/2/25

『シャバの「普通」は難しい』(中村颯希:原作、ばたこ:漫画、村 カルキ:キャラクター原案/KADOKAWA)

“普通”とは何だろうか。“常識”や“当たり前”とも言い換えられるこの言葉は、なかなか定義するのがむずかしい。自分にとっての“普通”は、誰かにとっての“異常”かもしれないし、自分が“非常識”だと感じることも、誰かにとっての“普通”かもしれない。

 私たちは、自分が育った環境や、そこでの体験によって自分だけの“普通”を作り出し、それを当たり前だと思って生きている。だが、それは決して絶対のものではない――。

 本作『シャバの「普通」は難しい』(中村颯希:原作、ばたこ:漫画、村 カルキ:キャラクター原案/KADOKAWA)は、小説投稿サイト「小説家になろう」の人気作品をコミカライズした作品だ。終始コメディタッチで爽快に進んでいくマンガだが、背後には“普通”を取り巻くテーマが見え隠れする。主人公は、ある事情を抱えて監獄で育った少女・エルマ。彼女は、恩赦によって王宮に勤めることになり、“普通”の女の子を目指そうとする。だが、監獄での“普通”と、王宮での“普通”はあまりにも違っていて…。

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 第1話は、エルマが王宮で働き始めた初日、彼女がいきなり身分の高い女性に“お茶汲み”をするというストーリーだ。エルマのことが気に入らない侍女のイレーネは、彼女にたくさんの仕事を押し付ける。厩への差し入れ、庭の手入れ、手紙の配達――そして、ユリアーナ前妃下のお茶の準備。エルマは、ユリアーナの身分は、新人がお茶を出すには高貴すぎると指摘するが、イレーネからは命令を守るのが“普通”だと言われてしまう。

 ユリアーナは、祖国ラトランドの文化を愛し、特にお茶へのこだわりは人並み外れたものがある。しかも、彼女は、気に入らない侍女に対しては容赦なく罰を与える性格の持ち主だ。エルマの後見人が彼女を心配しながら見守る中、そこで予想外のことが起こる。エルマは、貴重な銘柄のお茶を用意するばかりか、ミルクのために3種類の“銘柄牛”を準備していた。彼女が指をパチンと鳴らすと、アーベライン牛の“モーリッツ”が登場。そう、彼女は、その場で乳搾りを始めたのだ――。

「シャバの方というのは」「それくらいのこともできないのですか?」

 エルマの“普通”は、シャバの“普通”では考えられないことばかり。彼女は、監獄でいったいどんな教育を受けてきたのだろうか。第1巻では、まだその詳細は明かされないが、エルマがいたヴァルツァー監獄には、何やら秘密があるようだ。“普通じゃない”侍女のエルマは、これから“シャバ”でどんな騒ぎを起こすのだろうか。

 巻末には、原作者・中村颯希氏書き下ろしの短編小説「閑話 『普通』の包丁研ぎ」が掲載されている。内容は、エルマが刃物研ぎ職人・ドミニクに包丁研ぎを依頼するというストーリー。プライドの高いドミニクは、エルマを年端もゆかぬ小娘だと甘く見ているのだが…。本シリーズらしい短編に仕上がっているため、原作ファンも必読である。

文=中川 凌