「クラスのかっこいい男子がぼくは大好き」――魔夜峰央が絵本に込めた大切な思いとは?

エンタメ

2019/3/3

『けい君とぼく』(魔夜峰央/みらいパブリッシング)

「ボーイズラブ=BL」という言葉が広く認知されている昨今。漫画や小説、映画、ドラマなどで同性愛を題材にした作品は、決して珍しくなくなった。とはいえ、もしも家族や同僚、クラスメイトの中に性の問題で悩む人がいたら、どうだろうか。あるいはそれが自分の中の感情だったなら…。だれかを好きになるのは素敵なことだとわかっていても、すんなり受け入れられないのが現実ではないかと思う。

 本書『けい君とぼく』(魔夜峰央/みらいパブリッシング)は、幼稚園生の男の子・みき君(ぼく)が、みんなに優しくて活発な男の子・けい君に恋心を抱く様子を描いた絵本である。著者は、実写映画化でも話題の問題作『翔んで埼玉』や代表作『パタリロ!』などで知られる漫画家・魔夜峰央氏だ。

 多くの魔夜峰央作品に共通する要素のひとつはBLであり、女性と見紛う美青年・美少年たちが作品に華を添える。美青年・美少年の艶めかしい姿が描写されるのは、もはやお約束。男性カップルの恋愛模様が描かれることも多い。それらは、魔夜峰央作品の見せ場のひとつであることは間違いないが、いずれの作品も同性愛を題材にしているわけではなかったように感じる。なぜなら、単に登場人物のキャラクターというような、あっさりとした描かれ方だからだ。

 本書では真正面から同性愛をテーマとして扱っている点が興味深い。主人公・みき君のけい君への恋心を知った両親の“困惑した表情”が、同性愛に悩む人が直面する現実の厳しさを物語っている。両親のただならぬ気配を、主人公が子どもながらに感じ取っているのも印象的だ。いくらBLというジャンルがエンタメとして注目されても、世間の親の反応は、きっとみき君の両親のそれと変わらないだろう。

 こう書くと、本書がなにやら説教臭い作品のように思われるかもしれないが、おそらく著者にそういう意図はない。むしろ、“だれかに好意を抱く気持ち”を肯定する、ポジティブなメッセージが込められていると思う。それは、ラスト2ページと表紙のイラストを見れば、お分かりいただけるはずだ。

 絵本の物語は、けい君とみき君が幸せそうに手をつないでいる後ろ姿で幕を閉じる。後ろ姿なので、2人の表情は描かれていない。一方、表紙には天使の格好をした2人が、満面の笑みで仲良く手をつなぐ姿が…。本書を読み終えると、この2点のイラストが、表裏を成しているように思われてならない。純粋無垢な子どもたちの想いには、魔夜峰央作品に登場する男たちの耽美な容姿とはまた異なる美しさがある。

 大ベテランの人気漫画家である著者が、あえて初挑戦の絵本という媒体を選んだことにも注目したい。絵のタッチは漫画のときとほぼ同じだし、みき君の両親が会話する場面ではセリフに漢字(ルビなし)が使われているから、絵本ではあっても単純に幼児向けというわけではない。これは、無垢な気持ちを忘れて久しい大人たちへ向けた絵本なのである。

文=上原純