施設で育ち、壮絶ないじめ・DVを受けた女の子が“全米一のコメディアン”になるまでの記録

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公開日:2019/3/13

『すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール』(ティファニー・ハディッシュ:著、大島さや:訳/CCCメディアハウス)

 いじめは時に、理不尽にやってくる。特に子ども時代に受けるいじめは辛い。学校で逃げ場がない中で、ひとり暴言や暴力に抗うことは難しい。いじめで傷を負った子どもに、安易に励ましの言葉を送ったり助言をしたりすることが、いつも良い結果に繋がるとは限らない。

 しかし、同じように子ども時代に悲惨な目に遭ったものの、その困難をパワーに変えて大成した人物の姿は、いじめを受ける子どもに少なからず勇気を与えるかもしれない。

 1979年に生まれたティファニー・ハディッシュは、今、アメリカで最も注目されている人物のひとりだ。人気コメディアンとして活躍しながら、2017年には映画『ガールズ・トリップ』に出演し37歳で大ブレイク。2018年にはタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、同年、エミー賞コメディー部門の最優秀客演女優賞を受賞。

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 そして、彼女の半生をユーモアとウィット、毒舌に富んだ語り口で綴った自伝『すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール』(ティファニー・ハディッシュ:著、大島さや:訳/CCCメディアハウス)を出版するやいなや話題となり、大ブームとなっている。さらに、本書が原書のオーディオブック(本人朗読)で、2019年度グラミー賞朗読アルバム部門にノミネートされている。

 開けっぴろげの性格で「おもしろ姉さん」として今やお茶の間の大スターとなっている彼女だが、本書で明かされている半生は実に壮絶なものだ。小中学校時代はいじめられ、高校生時代は里子。施設や家を転々として過ごし、実の母親は精神を病む。ちなみにティファニーいわく彼氏はとびきりのクズで、旦那はガチのDV野郎。それでも戦い続けた半生は、戦いたくても勇気がでない女性達にたちまち支持された。

 本書によると、彼女は小中学校では、毎日「ハエがたかっている」「玉ねぎくさい」などとからかわれる、人気者とはほど遠いキャラクターだった。彼女は目の下に大きなホクロがあり、これがハエだと言われた。彼女の母親は、毎朝玉ねぎ入りのオムレツを食べさせたため、玉ねぎ臭かった。さらには、本書のタイトルともなっている「ユニコーン」とあだ名された。彼女のおでこにはイボがあった。このイボは大きく、尖っており、しかも“植物のように”どんどん成長していった。やがてツノのようになり、クラスメイトから「汚ったねぇユニコーン」とからかわれたのだ。

 ちなみに、彼女は思い悩んだ末、ある日教室で突如ハサミを手にし、このツノを切り取り、顔中血だらけになって教室をパニックに陥れたことも明かしている。さすがコメディアン、昔から話題には事欠かないようだ。

 さて、そんな彼女は高校でデビューでき、「おもしろいヤツ」と認知されるようになっていく。彼女いわく、人を笑わせる特殊な方法がある。

想像上の友達をつくるっていう方法があった。わたしには、みんなに見えない想像上の女友達、その名もカーメリータがいた。それからクラッカー[訳注:貧困層の白人に対する軽蔑的な呼びかたでもある]っていう名前の小さな鳥も。

 彼女は、例えば、授業中に誰かが自分の隣に座ると、「あなたカーメリータの膝の上に座っちゃってる。でも彼女そういうの好きだから、お尻でグリグリすると喜ぶよ!」と言う。変わり者というより、ちょっと危ないヤツである。しかし、クラスメイトは「何言ってるんだよ!」「変なヤツ。バカだね」と言いながらも、「でもウケる」と笑い、なんだかんだで友達として心を許してしまうのだ。

 彼女はコメディアンとして活動を広げる中で、紆余曲折を経て、大きく成長していく。彼女は、活動を通じていろいろな場面で、自分がどう感じたのか注意深く考えるようになった。人を笑わせるためには、自分自身が楽しんでいなくてはならない。自分のことをいかに深くまで理解できているかが重要であることに気付いたのだ。そして、人を笑わせるための、ひとつの信念にたどり着く。

まず自分をさらけ出さなくちゃいけない。自分をさらけ出すには、自分がどんな人間かをよく理解して、周りの人が自分に対してどういう反応をするかを心得ていないといけないのだ。

 いじめを受けると、人の反応が気になり、過敏になる。彼女は、いじめの経験を、成功のためのポジティブなパワーに変え始める。

 巻末の彼女の言葉に勇気をもらう子ども達は少なくないだろう。弱みは決して恥ずかしいことではない。素性を明かした彼女は、コメディーを通じて、力強いメッセージを世界に届け続ける。

自分の中の影や痛みを打ち明けることを、わたしは恐いことだとは思わない。

文=ルートつつみ