ビジネス本にして恋愛本!女にフラれて泣き、孫社長のムチャぶりに応えた男の等身大

文芸・カルチャー

2019/3/19

『恋愛依存症のボクが社畜になって見つけた人生の泳ぎ方』(須田仁之/ヨシモトブックス:発行、ワニブックス:発売)

『恋愛依存症のボクが社畜になって見つけた人生の泳ぎ方』(須田仁之/ヨシモトブックス:発行、ワニブックス:発売)は、社会の荒波と恋愛に立ち向かう、ちょっと情けない若き社会人が主人公の、青年向けギャグ漫画のような本だった。大好きな彼女に振られたときには「忘れるのに同じ年数がかかる」と思っていたという変態的なピュアさを持つかと思えば、IT創生期のソフトバンクでは孫正義氏と仕事をするというデキる一面も持ち合わせる。著者須田仁之さんの自叙伝だ。

 須田さんは現在、有限会社スダックスの代表を務める傍ら、多くのベンチャー企業やスタートアップ企業の役員を兼任。上場を目指す企業のアドバイザーとして活躍する“ベンチャー成功請負人”だ。今でこそ、ベンチャー企業の経営者の間で彼を知らぬ者はいないほどのビジネスマンだが、20代から30代前半の人生は決してスマートではなく、ただがむしゃらに仕事と恋愛にまい進する“恋愛依存症の社畜”であったという。

 須田さんの仕事と恋愛の略歴はこうだ。

1993年8月  マミちゃんと付き合う
1996年4月  イマジニア入社
1998年9月  マミちゃんに失恋
1998年10月 ソフトバンクグループ(スカパー!→クラビット、Yahoo! BB)へ転職
2000年5月  サトミと付き合う
2001年5月  Yahoo! BB立ち上げ
(中略)
2002年12月 有限会社スダックス設立(お惣菜や「好き味や」)
2003年11月 お惣菜や「好き味や」潰れる
2004年12月 アエリア社上場
2005年1月  サトミに失恋
2005年4月  新たな恋がスタート

 注目したいのは、1998年に初めての彼女「マミちゃん」に失恋した後、ソフトバンクグループでのYahoo! BB立ち上げ事業に没頭していったところだ。学生時代から5年続いた須田さんとマミちゃんの恋愛は、付き合ってはいたものの一方的で、一言でいえば非モテの片思いだった。

定期入れにカノジョの写真を入れて通学途中にそれを眺めたり、声を聞きたいときはカノジョの留守番電話の声を聞いて、自室でほくそ笑んだりしていた。

 愛し方がちょっと気持ち悪い。本書で語られる恋愛にはすべて例外なく、この気持ち悪さがうっすらと漂っていた。どこにでもいそうな情けない青年だった須田さんが、立派なビジネスマンに成長したきっかけは、溺愛していたマミちゃんに振られたショックをきっかけに、ソフトバンクグループに入社したことだった。

 須田さんの入社時、ソフトバンクはまだ携帯電話の通信事業者でもなく、球団も持っていなかった。須田さんは社畜として、昼夜休日問わず働いていた。鬼上司の指令に流されるまま、弱冠27歳にして、Yahoo! BBの立ち上げ事業の経営企画とオペレーション構築の担当者に就任。IT創生期、成長過程のソフトバンク。孫正義社長との会議は特にスケールが大きくぶっ飛んでいて、本気ゆえの“ムチャぶり”も多かったようだ。

(取締役会に提出する資料作りの最中、モデム設置初期費用についての会話)
「100万台を無料で配ろう。設置料金も無料だ!」(孫)
「社長、その瞬間に数十億の赤字になっちゃいます」(僕)
こんなやりとりが取締役会の前夜、というか既に日付は越えてしまい、当日であったと記憶する。

 こんな調子のムチャぶりを何度も乗り越えて、ビジネスマンとしての“泳ぎ方”を会得し、成功した須田さん。後に起業、飲食店事業の失敗を経て、2005年4月にはじまった「新たな恋」の相手と結婚。恋愛の“泳ぎ方”も会得することができたのだ。“泳ぎ方”を会得するまでの須田さんの迷走ぶり、振り回されぶりは悲惨すぎてもはや笑えるレベルで、なんと2003年には30歳でお惣菜や「好き味や」を潰し、3000万円の借金を抱えてしまうので、本書を読んだあとは「借金ないだけ、マシかもな~」なんて安心感を抱いてしまうから不思議だ。人生に疲れたとき、忙しい日々に希望を見出したいときに、荒療治ではあるがおすすめしたい。

文=三浦小枝