夢の“あきらめ方”教えます。今、絶望の淵にいるあなたに出会ってほしい物語

文芸・カルチャー

2019/3/15

『絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語』(頭木弘樹:編/河出書房新社)

 夢や希望というのは、日々の道しるべとなりうる。しかし、本当に心が折れかけているとき、まぶし過ぎる言葉はかえってプレッシャーとなり、よけいにふさぎこんでしまうきっかけになってしまうかもしれない。

 書店でも「夢をかなえる本」や「夢をあきらめない本」というのはよく見かけるものの、ときには“あきらめる”という選択肢も必要ではないか。そう訴えかけてくれるのは、著名人たちが著した「夢のあきらめ方」にまつわる物語をまとめたアンソロジー『絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語』(頭木弘樹:編/河出書房新社)だ。

■「千人に一人しかなれないものを目指せば、九九九人は挫折する」という真理

 文学作品やマンガ、歌詞といったさまざまなジャンルから、著者みずからが“夢のあきらめ方”について表現された作品を選び紹介している本書。あとがきでは各作品の解説も綴られているが、そもそもの前提として著者は「夢をあきらめるな」という言葉が溢れている世の中に対して、やんわりと疑問を投げかける。

 例えば、よく使われるフレーズに「あきらめずに頑張っていれば、いつか必ず夢は叶う」というものがある。たしかに、キレイで素晴らしい言葉ではあるし、励まされるときはあるかもしれない。

 しかし、必ずしも上手く行くとは限らないのも人生だ。著者が述べる「千人に一人しかなれないものを目指せば、九九九人は挫折することになる」というのも真理であり、それを受けての「世の中の多くの人は、夢がかなわなかった人生を生きているはず」という言葉はまさに“言い得て妙”だ。

 ときには立ち止まり「あきらめたわけでもない、でも夢がかなわなかった」という人たちが気持ちを整理することも大切。けっして「夢のかなえ方」を否定しているわけではなく、あくまでもカウンターカルチャー的な立ち位置として「夢のあきらめ方」を伝えているのが本書ならではの視点である。

■藤子・F・不二雄の作品に学ぶ“今”を見つめることの大切さ

 本書で紹介している一節に、藤子・F・不二雄氏の描いた「パラレル同窓会」という短編漫画がある。実際の作品自体が掲載されているのだが、著者は「あのとき、ああせずに、こうしておけば、夢がかなったかもしれないのに!」と後悔のある人たちに読んでほしいとすすめている。

 主人公は、極東物産の社長である53歳の高根望彦。名声を手にしながらも毎日どこか満たされない思いを抱えていた彼が、ある日届いた「パラレル同窓会」の知らせをきっかけに、異なる人生を歩んだパラレルワールドで出会った“自分”と人生を入れ換えるという物語だ。

 誰しも一度は“あのときこっちの道を選んでいれば、今はこんな人生を歩んでいたかもしれない”と思ったことがあるだろう。この作品で表現されているのはまさしくそんな願いで、主人公はかつて結婚できなかった女性と結婚した“自分”や、少年時代からの夢である作家となった“自分”たちと出会う中で、やがて人生の入れ換えを決断していく。

 ただ、結末をみると完璧な人生などないことを痛感させられる。今に何かしらの不満があるというのは、どんな人生でもいっしょ。大病を患った経験のある著者は病床でこの作品を読み「なぐさめられました」と評している。見方によってはネガティブな話でありつつも、不思議と“今の人生だってそんなに悪くないんじゃないか”と思えてくるのだ。

 このほか、音楽家・ベートーヴェンや小説家・連城三紀彦など、著名人たちのさまざまな作品をまとめている本書。夢を“あきらめる”という方法はけっして後ろ向きなものではなく、むしろ今を見つめて前へ進むための手段だということを教えてくれる。

文=カネコシュウヘイ