大人気シリーズ初の読み切り短編集!『一鬼夜行 つくも神会議』3つのポイント

文芸・カルチャー

2019/3/23

『一鬼夜行 つくも神会議』(小松エメル/ポプラ社)

 新選組シリーズ最新刊『歳三の剣』、大正時代の銀座を舞台にした不思議なミステリー『銀座ともしび探偵社』と、今年に入ってから新刊ラッシュが続く小松エメル。その代表作にして累計30万部突破を誇る人気シリーズ『一鬼夜行』(ポプラ社)にも最新刊が登場! 前作『一鬼夜行 鬼の嫁入り』で第2部が完結したが、本作『一鬼夜行 つくも神会議』は、第3部本編がスタートする前のエピソードで構成される短編集だ。

●巻を重ねるごとに増すキャラクターたちの深み

 明治の世を舞台に夜空をかける百鬼夜行の行列から落ちてきた小鬼の小春、浅草の古道具屋で鬼よりも恐ろしい強面の喜蔵がさまざまな妖怪沙汰に巻き込まれていく「一鬼夜行」シリーズ。

 巻を重ねるごとに物語世界は大きく広がり、キャラクターたちの深みも増してきた。それは主人公である小春と喜蔵だけでなく、喜蔵の妹の深雪、裏長屋に住む喜蔵の想い人の綾子、喜蔵の幼馴染みの彦次、古道具の付喪神たち、天狗の宗主・花信、河童の女棟梁・弥々子、強大な力を持った妖怪・百目鬼など、ユニークなキャラクターたちの物語もまた丁寧に描かれてきたからだろう。

 それもまた本シリーズの楽しさのひとつになっているが、今回の短編集では主にそんな脇を固めるキャラクターにスポットが当てられている。

●短編集ならではの読みどころは?

 表題作「付喪神会議」(表題は「つくも神」表記)は、喜蔵が営む古道具屋「荻の屋」の付喪神たちが主人公。硯の精、前差櫛姫、小太鼓太郎、茶杓の怪、しゃもじもじ、堂々薬缶といった面々が、因縁深い骨董屋「今屋」の骨董品付喪神たちと、“道具としての優劣”を決する五番勝負に喜蔵を巻き込んで騒動を起こす一編だ。

 そこから、百目鬼と鬼の娘・できぼしが「荻の屋」に持ち込まれた“生きている箱庭”の正体を探る「かりそめの家」、天狗に育てられて天狗になることを夢見る少年と大天狗・花信の交流を描く「山笑う」、河童の弥々子に憧憬の念を抱きながら永遠の命を持つ妖怪アマビエの魂を奪おうとする岬という妖怪を語り手にした「緑の手」、前差櫛姫が付喪神になった顛末と哀しき姫との出会いが語られる「姫たちの城」と続く。

 唯一、シリーズ本編の主人公である小春が登場する最後の一編「化々学校のいっとうぼし」では、人の世が文明開化に湧く中に西洋の“魔女”と小春が出会うエピソードを展開。この6編のほか、書き下ろしで「萩の屋」の付喪神たちの賑やかな日常が描かれるボーナストラック的な掌編「荻の屋の朝」「荻の屋の夜」の2編を巻頭と巻末に収録している。

●“報われない想い”に対する葛藤

 本作は「一鬼夜行」シリーズ初となる読み切りの短編集で、それぞれに読み味の異なる作品になっている。この6つの短編に共通するものがあるとすれば、“報われない想い”に対する葛藤がさまざまな形で描かれていることだろう。人であれ妖怪であれ、自らの願いの込もった想いに翻弄され、時に悲しい運命に飲み込まれていく哀切に満ちた姿が描かれているのだ。

 しかし、その筆致には常に“情”がある。その悲しくも優しい世界観が、シリーズを通した『一鬼夜行』の大きな魅力だ。もちろん、個性豊かで妖怪たちのユニークで賑やかなやりとりも健在。中でも前差櫛姫のかわいげのある口の悪さはなんとも楽しい。

 また、本作はシリーズ本編のストーリーではなく、それぞれ物語として独立した短編集なので、未読の人にとっては最初の一冊としても読みやすいだろう。もちろん、第3部のスタートが待ちきれないというファンにとっては、いつもの一鬼夜行ワールドの魅力が違った形で満喫できる一冊になっているはずだ。

文=橋富正彦