祖父は本当に人殺しだったのか――? 40年以上前の殺人事件の「真犯人」を若き女性2人が追うミステリー

文芸・カルチャー

2019/3/30

カインの子どもたち
『カインの子どもたち』(浦賀和宏/実業之日本社)

 読みやすいというのは、呼吸するように読める文章のことを言うのだと思う。息継ぎをする場所も含めてなめらかなリズムで読める文章。もちろん人それぞれ好みはあるから、万人に合致するわけではないけれど、『カインの子どもたち』(浦賀和宏/実業之日本社)はその読みやすさだけでもおすすめする価値のある本だった。

〈私の祖父は人殺しだった。〉

 という告白から始まる冒頭。

〈仮に祖父が本当に無実であっても、世間の大多数の人たちにとって、私は人殺しの孫だった。〉

 このリフレインのあと淡々と語られる身の上話で、主人公のアキにとっては祖父が本当に罪を犯していたかなんてどうでもよく、ただ、人殺しの孫というレッテルを貼られて生きた人生が、主人公にとって昏く冷たいものであるということがわかる。

 そして語り口にすっかり引き込まれたとき、有名ジャーナリスト・泉堂莉菜によって、アキの祖父が無罪だった可能性を告げられる。しかもまるで接点がないように見える莉菜の祖父が犯した殺人事件――こちらも彼女は冤罪を主張し続けているのだが――と犯人が同じである可能性があるというのだ。最初の十数ページで急展開をつきつけられ、読者としては一気に読み進めるしかなくなる。その構成の巧さに、あわせて唸ってしまった。

 自分と似た環境にありながら強い意思を瞳に宿す美しい莉菜に惹かれて、真相を探りはじめたアキ。祖父たちの無罪を補強するような証拠を次々と手に入れることで、さらに莉菜に心酔し妄信してしまう。だが、あることをきっかけに今度は莉菜の「嘘」が暴かれる。事件だけでなくさまざまな人間の思惑が錯綜し、物語は思いもよらぬ方向へと転がっていく。

 カイン、というのは旧約聖書の創世記に登場する、人類最初の殺人者とされている者だ。実の弟を殺し、神に問われて「自分ではない」と答えた最初の嘘つきでもある。本作は、殺人者の血をひく者として生きる苦悩だけでなく、事件の裏に二重にも三重にも重ねられた嘘が描かれる。

 そこに深く横たわるのは、人間の嫉妬と欲望だ。弟だけが神に愛されているとひがみ、刃を向け、己の罪を隠すために嘘を吐いたカインのように。本作の登場人物たちはみな、自分だけが愛されるため、愛の恩恵にあずかるため、悪意の刃を他者に向ける。最終的に明かされる真相はあまりに切なく、なにが罪で、なにが正しさなのか読者に葛藤をつきつける。

 ちなみに、泉堂莉菜が浦賀作品に登場するのは初めてではなく、本作は『Mの女』(幻冬舎)、『十五年目の復讐』(幻冬舎)に敷かれた伏線を回収する3作目でもある。前2作を読むとより、彼女の「真実」に近づけるのでこちら2作もあわせておすすめしたい。

文=立花もも