ことわざを科学的に徹底検証! 「早起きは三文の徳」は本当? 意外な結果は…

文芸・カルチャー

更新日:2019/4/1

『このことわざ、科学的に立証されているんです』(堀田秀吾/主婦と生活社)

 ことわざは、先人の経験が語り継がれ、いつ誰がいい始めたものか分からないものも多い。しかし、出典の明らかなものもある。「目から鱗が落ちる」は聖書に由来していて、鱗でふさがれていた目が急に見えるようになったかのごとく、分からなかったことを理解できるようになることのたとえだ。

 このように、ことわざについて文化面や歴史的な見地から意味や成り立ちを調べるのもおもしろいが、それとは視点を変えて“科学的な面”に焦点を当てたのが、『このことわざ、科学的に立証されているんです』(堀田秀吾/主婦と生活社)である。

 本書によれば、「ことわざ」は「言(こと)」と「業(わざ)」を組み合わせた言葉で、「民族の知恵の結晶」ともいえるそうだ。つまり、ことわざには文化的な要素が多く含まれており、「所変われば品変わる」のように、国や文化が違えば、ことわざもまた異なるはずだ。だが、「時は金なり/Time is money.」は外国から入ってきたものだし、「壁に耳あり/Walls have ears.」のように違う国でも共通の教えがあることから、著者は普遍性を追求する“科学的な証明”とことわざとを組み合わせることについて、「決して荒唐無稽な試みではない」と述べる。それでは、本書からいくつか例を紹介しよう。

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■笑う門には福来る

 人間は笑うとストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールを軽減できることが研究で分かっている。それに加えてカンザス大学では、被験者の口にさまざまな形で箸をくわえさせる実験を行ったところ、「笑顔にならないくわえ方」よりも「大きな笑顔になるくわえ方」をしていた被験者たちのほうが、ストレスの度合いが低かったそうだ。作り笑いであってもストレスが軽減されるとなれば、笑うことがいかに重要か分かる。

■年寄りの冷や水

 老人が年に似合わぬ危ういことをしたり、差し出たふるまいをしたりすることを意味する、このことわざ。慶應義塾大学と富士通総研経済研究所による共同調査では、「過激度に最も大きな影響を与えているのは年齢」だそうだ。「憲法9条を改正する」とか「原発は直ちに廃止する」といった政治的なテーマを10個用意して、賛否を7段階で答えてもらったところ、世間一般でいわれがちな「ネットをよく使う人」と「そうでない人」による傾向の違いは意外にもなく、「単純に年齢が高い人ほど過激な意見を持っていることが多い」と分かったという。また、脳機能は効率よく働こうとしてひとつの物事に「最適化」するので、それもまた「私は間違ってない」という高齢者の頑固さに結びついてしまうのだとか。

■早起きは三文の徳

 得ではなく徳だから徳を積むこと…なんてしたり顔でいうのは「年寄りの冷や水」かもしれない。得も徳も似た意味であり、素直に早起きすれば得をすると思って良いそうだ。ただし、ウエストミンスター大学での研究によると「無理をして早起きをするとストレスが増加する」のだという。著者は、「早起きして朝活や運動をしないと、良識ある社会人にはなれない」なんて考える必要はないと述べていて、朝に弱い私としてはありがたい。でも、アメリカのイリノイ州にある高校において、毎朝必ず運動をさせるようにしたところ、学力が向上した例もあるらしい。

 こうなると、「善は急げ」と「急いては事を仕損じる」とか、「三人寄れば文殊の知恵」と「船頭多くして船山に登る」などの相反する意味のことわざは、それぞれどう考えるべきなのか好奇心が湧いてくる。そのことについては本書各章にはさまれたコラムで触れていて、科学的な証明にも反対の証明が出ることはあり、それをまた検証していくというのが科学のあるべき姿なので、「疑うことは悪いことではありません」としている。先人の知恵は頼りになるもの。とはいえ、当たり前を疑い、でも頭ごなしに否定するのではなく、笑顔を忘れずに、と心得ておこうかと思う。

文=清水銀嶺