あなたのインスタが写真史を変えている!? 視覚でコミュニケーションする『インスタグラムと現代視覚文化論』

暮らし

2019/4/7

『インスタグラムと現代視覚文化』(レフ・マノヴィッチ/ビー・エヌ・エヌ新社)

 スマートフォンの端末から画像や動画を共有するアプリ、インスタグラム。そのユーザー数は、昨年についに10億人を超えたそうだ。美味しい食べ物や珍しい景色など、日常の一コマを共有するインスタグラムは、私たちの日常に入り込み、今や多くの人にとってなくてはならないものとなっている。いったい、毎日、世界中でどれほどの写真や動画がアップされているのだろう。

 だが、これほどまでにインスタグラムが主流となっても、インスタグラムにアップされた写真を芸術的価値があるものとして語る人はほとんどいない。それらの写真が美術館に展示されることもなければ、写真論として論じられることもほとんどない。

『インスタグラムと現代視覚文化』(ビー・エヌ・エヌ新社)は、メディア理論家であるレフ・マノヴィッチが、インスタグラムにアップされた1500万枚もの写真を、「カルチュラル・アナリティクス」という手法で分析した写真論である。普段、インスタグラムに触れている人なら、思わずうなずく箇所が満載だ。

 まず、著者はインスタグラムにアップされた写真を大きく3つに分ける。日常のとりとめのない瞬間を気軽に切り取った「カジュアル写真」。撮影するカメラや構図にこだわった「プロフェッショナル写真」。色彩のトーンの統一感や、被写体のテーマを統一した「デザイン写真」。それぞれの写真について、豊富なカラー写真を参照できるのが嬉しい。

 次にインスタグラムの写真に共通するスタイルについて分析する。デザイン的に洗練された写真の多くはどうもどこかに通っていると考えた著者は、それがライフスタイル誌である『キンフォーク』の世界観に似ていることを発見する。

キンフォークとインスタグラムの写真は、壁のテクスチャ、人の手、花、デザインされた軌跡に沿って動く身体、画面の隅から風景を見ている人など、非常に具体的なものごとを映している。しかし同時に、それはとても曖昧で、まるで表象の意味機能をぼかしているかのようだ。

 確かに、これらはお洒落なインスタグラムの写真たちに見られる特徴ではないだろうか。

 そんなインスタグラムの根底にあるのはなんだろう。著者は、「物語ることの拒否」ではないかと考える。言葉でコミュニケーションを取るのではなく、視覚でコミュニケーションを取り合う世界。それはまるで1960年代のアヴァンギャルド映画のようだという指摘がおもしろい。そうして気がつかないうちに、インスタグラマーたちは「世界的なデザイン集団」となり、社会を動かしていると著者は指摘する。

 普段何気なく眺めたり、画像をアップしたりしているインスタグラムだけど、実は、大きな写真史の流れに参加しているのかもしれない。そんな俯瞰した視点で今を見つめることのできる一冊だ。

文=武田郁