かつての熱血監督は歌舞伎町でヤクザに…。新米巡査が見た「歌舞伎町の光と闇」

文芸・カルチャー

2019/4/13

『新宿花園裏交番 坂下巡査』(香納諒一/祥伝社)

 仲間と絆を育んだり、何かに夢中になったりする青春小説は、眩しいくらいキラキラしている。だが、その舞台が新宿・歌舞伎町となれば、話は別だろう。『新宿花園裏交番 坂下巡査』(香納諒一/祥伝社)はひとりの新米巡査の成長を記した物語だが、一般的な青春小説よりも闇が深く、奥深さを感じさせる作品だ。

■歌舞伎町で出会ったかつての恩師は変貌し…

 主人公の坂下浩介は、俗に「裏ジャンボ交番」と呼ばれている花園裏交番に勤務している。酒がらみのトラブルも多い場所で、歌舞伎町の治安と人々の命を守るため、日々任務に勤しんでいた。

 そんなある日、浩介は歌舞伎町内で起きたひったくり事件や窃盗事件を追いかけ続けているうちに、意外な人物と遭遇することになる。その人物とは、浩介が高校時代に慕っていた野球部の熱血監督・西沖達哉。西沖は夏の地方大会が間近に迫ったある日、突然高校を辞めてしまい、行方をくらましていた。そして、それから10年後である現在、西沖はヤクザとして闇の世界で生きるようになっていたのだ。

 かつての恩師だった西沖の変わりように浩介は動揺し、当初は「関わりたくない」とさえ考えていた。しかし、自分が担当する事件の先々で西沖と接していくうちに、彼の本心や歩んできた人生を知りたいと感じるようになっていく。

“「なんでそんな人になってしまったんだ!? 昔のあなたは、どこに行ったんです? 僕ら、人間なんですよ。もう少しちゃんとしたことを言ってくれ!」”

 そう熱く訴えかける浩介に対して、西沖が浴びせた辛辣なセリフは、読者の好奇心をよりくすぐる。

“「浩介、昔の俺がどこかにいなくなったわけじゃない。昔のおまえがいたような世界は、もうどこにもないってことだ」”

 決して交わってはいけない立場である2人は、果たして10年越しにどう関係を紡ぎ直し、どんなピリオドを打つのだろうか…。

■リアリティ溢れるノワールな世界がここに!

 新宿・歌舞伎町といえば、眠らない街と称されることも多い、日本最大級の繁華街。そこには、さまざまな思惑と欲望に翻弄された、一筋縄ではいかない住人たちも多く暮らしているように思えてならない。しかし、本作を通して歌舞伎町という街の裏側を垣間見ると、その考えが変わるかもしれない。

 なぜなら、浩介や西沖といった登場人物たちの生き様や真の強さは、どんな世界にいても自分の信念を曲げずにいれば、人は胸を張り、手を取り合って生きていけるのだということを教えてくれるからだ。

 本作は、クセのある住人たちと浩介が絆を育んでいく、ノワールな空気の青春小説。新米巡査である浩介は、闇の住人たちや二転三転する事件と関わっていく中で、警察官としてだけでなく、人間としても成長していく。「警察官×ヤクザ」という設定でも血なまぐさくなりすぎないところに、著者の温かい視線が見えるような気もする。

 アンダーグラウンドな世界にも、義理や人情は存在している。――そう感じさせてくれる本作には、私たちが知らない歌舞伎町のリアルが詰まっているように思えてならない。

文=古川諭香