竜宮城で密室殺人!? 新しい昔話『むかしむかしあるところに、死体がありました。』

文芸・カルチャー

2019/5/2

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(青柳碧人/双葉社)

 日本人なら誰でも知っている、桃太郎や一寸法師、鶴の恩返しなどの昔ばなし。「むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがおりました」そんな穏やかな始まりのものばかりに触れてきたからか、本書のタイトルを一読して目が覚めた。『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(青柳碧人/双葉社)。そうだ、そんな展開の昔ばなしがあったって不思議じゃない。むしろ、おもしろいじゃないか。表紙を開けば、『浜村渚の計算ノート』(講談社)などのヒットタイトルで知られる青柳碧人氏が、昔ばなしを翻案(?)、ミステリに仕立てた、「なんでもアリ」の昔ばなしワールドが幕を開ける!

 たとえば、わたしたちがよく知っている「浦島太郎」。本書では、「密室龍宮城」というタイトルになっている。「むかしむかしあるところに、浦島太郎という、たいそう気立てのいい漁師の若者がおりました」太郎が亀を助け、海に入るところまでは、わたしたちが知る浦島太郎の物語と同じだ。しかし、太郎が龍宮城で乙姫様のもてなしを受けた夜、眠ろうと客間に入ったころから、お話はきな臭くなってくる。龍宮城はそれまでと変わらず、絵にも描けない楽園のような美しさでそこにある。だが、その内部では、不穏な変化が起こっていた。突如豹変し暴れ出す蛸、場違いな闖入者、そして、死体となって発見された伊勢海老──。

 伊勢海老の死体発見現場は、完全な密室だった。太郎が助けた亀(ひと形になったときは美女)は、黒目がちな瞳を潤ませて言う。「私たち海の生き物には知恵が足りませぬ。人の知恵を使って、どうか、おいせ姉さま(注・伊勢海老)の無念を晴らしてやってくださいまし」。かくして太郎は、探偵役として、この龍宮城で起こった不可解な密室殺人の解決を目指すことになったのだが……!?

 ここまでお読みになってわかるとおり、本書で繰り広げられるのは、本当に「なんでもアリ」な昔ばなしの世界。おなじみの昔ばなしの舞台や登場人物も、密室やアリバイ、ダイイングメッセージといった要素を噛ませると、あっというまにミステリに早変わりだ。意外性に驚きながらも読み進めているうちに、わたしたちは、善人だと思っていた人の胸に悪人の心を見出し、愛情の裏に憎しみを感じ取り、穏やかな暮らしの中に、先代から引き継がれた使命を見る──「ははあ、昔ばなしもミステリも、“人間”を描いているという点では同じだったのだなあ」などという気分になってくる。

 収録されているのは、「一寸法師の不在証明」「花咲か死者伝言」「つるの倒叙がえし」「密室龍宮城」「絶海の鬼ヶ島」の全5編。昔ばなしの変貌ぶりや、ミステリのトリックを楽しめるのはもちろん、各作品の絶妙なリンクも見事だ。気鋭のミステリ作家・青柳碧人氏が巧妙に作り上げた、まったく新しい昔ばなしの世界で、いつの時代も変わらない人の心に、存分に驚かされてほしい。

文=三田ゆき