夜道で拾った元同級生と始まる恋物語。底抜けに優しい男とこじらせプレイボーイのリバBL

マンガ

更新日:2019/6/13

『愛し』(くれの又秋/祥伝社)
『愛し』(くれの又秋/祥伝社)

「BL史上最高のリバ」と名高い『愛し(かなし)』(くれの又秋/祥伝社)をご存じだろうか。

 バイト帰りの大学生・辻翔真は、マンションのゴミ置場で寝ている酒臭い男性に声をかけ、まともに会話もできない彼を家に持ち帰り、風呂に入れる。

 純朴なお人好しで世話焼きの翔真は、また他人にいらない世話を焼いてしまったと反省しながらも、風呂上がりの男性の顔を見てハッとする。中学時代に同じクラスだった芦田翔だったのだ。

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 芦田はクラスメイトの間では男もいける奴として知られ、ちょっとした有名人だった。放課後教室に入ろうとした翔真は、友人の机を舐める芦田の姿を目の当たりにし、今でも忘れられないのであった。

 しかし、当の本人は翔真のことなんて大して覚えていない。むしろ、自分が想いを寄せていたクラスメイトは翔真のグループに属しており、机にキスをしている姿を見られた芦田はそれ以来卒業するまでずっと強く当たられるようになっていた。思い出したくもない記憶である。

 それももう数年前のことであり、芦田は決して翔真に怒ってきたりはしない。むしろ恋人に捨てられ路頭に迷っていた彼は、翔真の家に喜んで転がり込むのであった。そして、その日の夜、違和感を感じて目を覚ました翔真は、自分のモノをくわえている芦田に気づいて赤面パニックに陥る。「目つむって最近見たAVでも思い出してよ」と言われ、半ば強引にフェラをされた翔真はあまりの気持ち良さに昇天、そして、精液を飲み込んだ芦田に衝動的にキスをしてしまうのだった。

 それ以来、芦田は家にいつくようになるが、さっさと女性の恋人を作ってしまうようなプレイボーイ。スキンシップも多くコミュ力も高い芦田は中学時代とはまるで別人だった。そして、一度抜かれた翔真は、芦田のことを想像して抜くようになってしまう。「俺がホモになるわけがない」と混乱しながらも、着実に心は芦田に惹かれていく。

 そして、芦田との関係は次第にただれていく。恋人とうまくいかず振ってしまった芦田は、翔真を誘う。翔真のモノを自ら挿入し腰をふる芦田。都合よく翔真を利用していることに罪悪感があるのか、ごめん、と言いながらキスをする。料理も人付き合いも上手なくせに、恋愛はこじらせていて不器用な姿に、またグッとくる。

 この作品は、とにかくふたりのキャラクターが素晴らしい。お人好しで世話焼き、とにかく純朴で器の大きい翔真。男前でプレイボーイのくせにしっかりこじらせて臆病な芦田。流れで当然のように挿入される芦田と挿入する翔真。この関係が、ある日芦田の一言によって逆転することになる。

 底抜けに優しい翔真と、それに甘えて都合よく立ち回る芦田。しかし、実は芦田の方がずっと翔真に依存していて心を揺り動かされているのがいい。反対に、どーんとかまえて精神状態が安定している翔真は本当に男前で、こんなに面倒臭い男と付き合えるのは翔真くらいしかいないんじゃないか、と思わせられる。

 特にクライマックスのときめき濃度は異常に高く、正直「え、ここで終わり? 続きは?」と、ふたりのその後が読めないことが悲しくなってしまったほど。リバも物語の大きな転換期として違和感なく表現として溶け込んでおり、ふたりの関係性が深まっていく過程も含めて萌えの連続である。リバが苦手な人にとってもこれはけっこう楽しめるのではないか、と思う作品。

文=園田菜々