敷金・礼金ゼロ、代わりに命の保証ナシ! リア充の集うシェアハウスで起こる残忍な殺人の犯人は…

文芸・カルチャー

2019/5/6

『マーダーハウス』(五十嵐貴久/実業之日本社)

 人間の毒々しさが巧みに表現された文章に痺れる…。――五十嵐貴久氏のサイコミステリーを読むと、いつもそんな感覚で胸がいっぱいになる。五十嵐氏といえば、出会い系サイトをモチーフにしたホラーサスペンス『リカ』(幻冬舎)シリーズで注目を集めた人気作家。彼が手がけるミステリーには疾走感があり、ページをめくる手が止まらなくなってしまう。

 そんなミステリーの巨匠が放つ『マーダーハウス』(実業之日本社)は、8LDKの2階建てシェアハウスを舞台に、おぞましい殺戮が繰り広げられるサイコミステリー。物語はなんと、バラバラに解体した人間をビニール袋に入れて運ぶ描写から幕を開ける。

■憧れのシェアハウスでのリア充生活に不安な影が…

 主人公の藤崎理佐は、かねてから憧れていた大学への入学を機に、敷金・礼金ゼロのシェアハウス「サニーハウス鎌倉」で暮らすこととなった。まるで海外セレブの別荘のような外観の「サニーハウス鎌倉」は設備も充実しているのに、家賃は光熱費込みで4万5000円と格安。しかも、同居仲間は某テレビ番組に出て来そうなほどの美男美女たち。同居人たちに温かく迎えられた理佐は、楽しいシェアハウスライフを満喫するようになった。

 そんなある日、1年前まで「サニーハウス鎌倉」に住んでいたという衣笠健人の行方を尋ねに刑事がやってきて、物語に暗い影が落とされるようになっていく。

 刑事が来た数日後には、なんと同居仲間である大学生の鈴木が学校の部室で死亡。鈴木の死は事故死として片づけられたが、この事故をきっかけに理佐はシェアハウス内での生活で違和感を覚えるようになる。

 どこからか聞こえてくる木の枝がこすれるような音。誰かが部屋に入ったような形跡。時々感じる誰かの視線。“気のせい”で見過ごしてしまいそうな、それらの小さな違和感は背筋が凍るような大きな恐怖に繋がっていくのだ。

 その後、またもや同居人が事故死してしまったため、怖くなった理佐は高校時代の同級生・高瀬弘に相談。シェアハウス内で何が起こっているのかを一緒に突き止めることにする。しかし、その先に待ち受けていたのはあまりにも歪んだ犯人の企みだった…。

 意外すぎる犯人像と禍々しい犯行がスリリングな本作は、大人気の「リカ」シリーズを彷彿とさせる。赤の他人とのシェアハウスライフは煌びやかなテレビ番組のようにはいかず、悪意によって命が消されてしまうこともあるのかもしれない…。

■同居人の本当の顔は、善人かどうか?

 本作の中で犯人が明かす歪んだ犯行動機に読者は震撼し、フィクションであることに安堵するはずだ。しかし、シェアハウスは他人同士が身を寄せ合う場所だから、実際に何かしらの事件が起こらないとも言い切れないはず。そういった視点でとらえると、本作はセミ・フィクションであるようにも思えてしまう。

 シェアハウスライフには、一人暮らしとは違った大きな魅力がある。某人気テレビ番組の影響もあり、孤独感を埋めることができてコスパ的にも助かるシェアハウスは憧れの的になることも多い。

 だが、一つ屋根の下で赤の他人と安全に暮らしていくには、気を付けなければならないことも数多くありそうだ。たとえどんなに外見が魅力的でも、人当たりがよくても、一緒に暮らしている期間が長くても、本当の顔は掴み切れないのだ…。極論で言えば、シェアハウスで生活するには善人か怪物か分からない相手と共に暮らしていくという覚悟が必要なのかもしれない。

 春からの新生活で、身の回りの環境がガラっと変化したという人も多いだろう。だからこそ、シェアハウスでの暮らしを考えている方は要注意。あなたを温かく包み込んでくれる同居相手は、もしかしたら人の皮を被った残忍な怪物かもしれない。

文=古川諭香