花咲か爺さんが殴り殺された真相を暴け! 大人向け暗黒昔話集

文芸・カルチャー

2019/5/15

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(青柳碧人/双葉社)

 桃太郎や一寸法師、鶴の恩返しといった昔話は、誰もが一度は読んだことがある王道の物語。正義が悪をこらしめるという分かりやすいストーリー展開は、人生の教訓として使われることも多い。しかし、そこに「ミステリー」という要素が加わると、昔話はさらにおもしろく、奥深くなる。

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(青柳碧人/双葉社)は、昔話×ミステリーという斬新な視点によって描かれた、本格派ミステリー小説だ。インパクト抜群な書籍名が目を引く本作にはおなじみの昔話が5作おさめられているが、「一寸法師の不在証明」や「花咲か死者伝言」、「密室龍宮城」などといったスリリングなタイトルにハラハラさせられる。

 ハッピーエンドでめでたく締めくくられない“大人向け”の暗黒昔話には、人間の心の闇がまざまざと映し出されている。

■花咲かじいさんを殴り殺した真犯人は誰?

 心優しい老夫婦と欲深い意地悪な老夫婦が登場する「花咲かじいさん」は、人や動物に親切にすることの大切さを学ぶことができる日本民話のひとつ。亡くなった犬の灰で枯れ木に花を咲かせる光景に、子どもながら感動を覚えた読者も多いはず。だが、本作にかかれば、そんな花咲かじいさんの物語も血なまぐさく、ミステリアスな展開になる。

 物語の舞台となるのは、昔話のその後。ストーリーは、しろとよく似た次郎という犬の視点で進められていく。心優しい花咲かじいさんこと茂吉爺さんは、亡きしろの面影を重ねて次郎を快く家に迎え入れる。しかし、なんとその5日後、茂吉爺さんは何者かの手によって頭を石で殴られ、殺されてしまった…。

 茂吉爺さんの死体を発見した次郎や村の人々は、真っ先に日頃から意地悪をしていた太作爺さんが犯人ではないかと疑うが、彼には3日前からお城に捕えられていたという完璧なアリバイがあった。

 この難事件を解決するカギとなるのは、茂吉爺さんの手に握られていた「ぺんぺん草」。このぺんぺん草こそが、死にゆく茂吉爺さんが残したダイイングメッセージだと考えた村人たちは、真犯人を捕まえようと躍起になる。果たして、ぺんぺん草が意味する花咲かじいさんの最期の言葉とは何なのか。

 一筋縄ではいかない犯人探しはスリル満点。真犯人の正体をつきとめた時、あなたはきっと人間の欲深さや浅ましさに背筋が寒くなるはずだ。

■ピュアなままではいられない大人の心に染みる暗黒昔話

 昔話には善意がたっぷり詰まっていて、正直者や心優しい者が幸せになるようにできていた。しかし、本作には人間のドロドロとした感情が描かれており、中にはバッドエンドの話もある。予想外なストーリー展開に驚かされるからこそ、読み進める手が止まらなくなってしまうのだ。

 子どもの頃のようなピュアな気持ちのまま生き続けることは不可能に近く、私たちは人間界の汚さや世の中の理不尽さをしみじみと感じながら大人になっていく。善行をしても、昔話のようなハッピーエンドが待ち受けているとは限らないと、感じてもいる。

 だからこそ、「ご都合主義な展開」ではない本作のストーリーは、童心を忘れつつある大人の心を揺さぶる。この世は狡さや絶望、裏切りに満ちているけれど、闇を照らす一寸の光も存在している。――そんな教訓を教えてくれるのだ。

 誰もが知っている昔話をオマージュした5つの作品は、どれもあなたにとって衝撃的なラストを迎える。人間の本質を巧みに表現する暗黒昔話には、「めでたし、めでたし」と単純には終わらない深みがあるのだ。

文=古川諭香