「拒絶されると心が死ぬ」「人と会った後の疲労感が半端ない」…生きづらい自分をそっといたわる実録エッセイ漫画

マンガ・アニメ

2019/5/15

『生きやすい』(菊池真理子/秋田書店)

 大好きな友達や恋人と会うと、それなりに楽しい時間を過ごせるのに、帰り道ひとりになると、どっと押し寄せてくる疲労感。あの正体は、何なのだろう…。誰かと話している瞬間は笑えているのに、解散した後に言葉にできない疲れを感じる自分に嫌気がさしてしまう。『生きやすい』(菊池真理子/秋田書店)は、そんな言いようのない生きづらさにそっと寄り添ってくれる、優しいノンフィクションコミックエッセイ。

 著者の菊池さんは、他人に気を使いすぎてしまう性格。親しい友達と会話をしている時も、頭の中ではその場でどう振る舞うのがいいのかを常に考えている。

 人間は結構好き。でも、人と繋がった後に生まれるしがらみが苦しい…。そう思う菊池さんは自身の日常を描くことで私たちに、“生きづらい自分との上手な付き合い方”を教えてくれる。

■自己啓発本にはない“生きやすさの見つけ方”がここに

 菊池さんは幼い頃から、酔って奇行を繰り返す父と新興宗教信者の母を見つつ、壊れていく家庭の中でがむしゃらに生き抜いてきた。そうした家庭環境の影響もあり、自分に対して自信が持てない。自分の価値が分からないため殺人的な仕事のスケジュールに応えようとしたり、仕事の締切りが迫っていても友達の都合に合わせて予定を空けようと努力したりしてしまう。

 自分は誰かに何かをしてあげないと、愛されない存在。…その想いは“生きづらさ”に変わり、菊池さんを苦しめた。そんな彼女の気持ちが、毒親育ちの筆者には痛いほど理解できた。

 生きづらさを解消したいと思うと、私たちはさまざまな自己啓発本や心理学本に頼りたくもなる。すると、決まって「自己肯定感を高めよう」や「自尊心を育てよう」という対処法と出会う。他人に本音が言えなかったり、自己犠牲的な考え方をしてしまったりするのは育ってきた環境に原因があるからだという指摘もよく記されている。

 けれど、そんなことは当事者である自分自身が一番良く分かっている。生きづらさを抱えている私たちが知りたいのは、“自己肯定感がないまま生き抜いていける術”。「どうしたら周りの人みたいに、自分を楽しめるようになるか」ということだ。

 本作はそんな心理にそっと寄り添い、共に生きづらさと闘ってくれる1冊。長年下してきた自己評価をどう変えていけばいいのか、どう振る舞っていけば生きやすくなるのかを見いだせるようにもなっている。無条件で愛されなかった私たちはもっと、自分に優しくなってもいいのだ。

■自分を変えない勇気を

 女子会や飲み会などでは、自分の近況に話題が向けられることも多い。しかし、そんな状況に居心地の悪さを感じ、「どうか話が振られませんように…」と願い続けた末、聞き上手になった人もいるのではないだろうか。菊池さんもそのひとり。集団の中で、言葉にできない生きづらさを感じ続けており、心無い言葉も言われてきた。

 菊池さんの心に傷をつけた「何を考えているか分からない」という言葉は筆者もよく言われ、その度に心が死んでいく感覚を味わった。自分の話は楽しくないし、聞いてもらう価値などないと思っているから聞き役に回らざるを得ない。しかし、その生きづらさは理解されにくいため誤解を受けやすい。すると、その度に「自分を変えなければ…」と思わされてしまう。だが、菊池さんは気づいた。自分を無理に変えようとはしなくてもいいのだと。

 近ごろは「#MeToo」というハッシュタグが流行ったり、オープンな女性が愛される風潮が強まってきたりしているが、果たしてそうなれたなら、心の中にくすぶっている生きづらさは解消されるのだろうか。

 コミュニケーションは、お互いのことを理解していくために大切なもの。しかし、自己開示するタイミングやペース、教える情報量は自分の心と相談しながらゆっくり決めていけばいい。腹を割ってすべてを話すことだけが、心を通い合わせる術ではない。人生の生きづらさを知っている私たちは「話さないこと」で、誰かと心を通わせることだってできるはずだ。

 自分を好きになる方法をひもといた書籍は数多くある。だが、自分を愛し、認めることができない私たちにとっては、実践することをためらってしまうものもあるように思える。本書は、そんな方にこそ染みわたる作品だ。

“私なんて たいした人間じゃないのに ガードは固くて 性格悪くて ここにいる誰よりも好かれる要素なんてないんだよ”

 この言葉が心に響いた方は自己啓発本にはない“自分のいたわり方”を学んでみてほしい。

文=古川諭香