若き当主×嘘吐き執事が凸凹な主従関係を結ぶ! 映画『うちの執事が言うことには』原作小説シリーズ第1作

文芸・カルチャー

更新日:2019/6/13

『うちの執事が言うことには』(高里椎奈/KADOKAWA)

 デビューシングルの「シンデレラガール」が話題となり世間の注目を浴びたKing & Prince(愛称:キンプリ)は、今をときめく人気アイドル。その人気っぷりは止まるところを知らず、メンバーたちはバラエティ番組やドラマなど幅広いジャンルで活躍している。

 そんな人気グループのメンバーである永瀬廉さんと神宮寺勇太さんが出演し、2019年5月17日から公開される映画の原作小説『うちの執事が言うことには』(高里椎奈/KADOKAWA)は、若き当主と新執事が織りなす上流階級ミステリー。

 主人公の烏丸花頴は父親が第一線を退いて隠居することになったため、18歳という若さで烏丸家の27代目当主に。その決意の裏には40年間、烏丸家で執事を務めている鳳が関係していた。

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 花頴にとって鳳は、誰よりも信頼できる存在。身の回りの世話をしてくれるだけでなく、母親が亡くなった後に深い愛情を注いでくれた鳳のことを、花頴は大切に思っていた。そのため、家督相続と同時に大好きな鳳が自分の執事になってくれるのだと思い、喜んで留学先のイギリスから帰国し、当主となったのだ。

 だが、花頴の目の前に現れたのは凰ではなく、ミルクティー色の髪をした、新執事。実は鳳は家令(ハウス・スチュワード)に昇格したため、花頴の執事はフットマンであった衣更月が務めることに…。鳳との心安らぐ主従関係を望んでいた花頴は目の前に突き付けられた現実に戸惑い、落胆。冗談が通じない衣更月と、どう関係を育んでいこうか思い悩む。

 そんな最中、烏丸家で事件が勃発。なんと、家にあったはずの銀食器の一部とティーカップのセットが内部の人間によって盗まれてしまった。

“何人たりとも、烏丸家の名に傷は付けさせない。犯人は僕が見つけ出す。”

 そう豪語した花頴は、衣更月と共に真犯人を捕まえようと奮闘。しかし、事件を調べていく中で、花頴は衣更月の思わぬ本音を知ることになる。

“「俺は鳳さんの技に惚れ込んで、何度も頼んで旦那様に無理を言って雇い入れてもらったんだ。鳳さんに認めてもらいたくて頑張ってきたのに、フットマンの仕事にやっと慣れてきたと思ったら、後継ぎ?”」

“「俺は、こんなクソ餓鬼の子守りがしたくて、死に物狂いで勉強しながら働いてきた訳じゃない」”

 鳳への愛や信頼が強すぎるあまり2人は反発し、納得できない現状への不満をぶつけあう。だが、次第に自分の立場を見つめ直し、当主として、執事としてどうあるべきなのかを見出していく。

 はだかの王様と嘘吐きな執事は共に成長できる、理想的なパートナー。相容れない未完成な2人がどんな風に主従関係を深めていくのか、読者は終始、ワクワクさせられてしまう。

■不本意な主従関係が教えてくれる“絆の育み方”

 融通が利かないロボットのような対応をする新執事と、若くて不器用な当主。この2人が繰り広げるコミカルなやりとりが、本作をより一層おもしろくしている。

 そして、2人ははじめこそ、不本意な主従関係に不満を感じていたが、さまざまな難事件を共に解決するうちに関係が変化していく。例えば、花頴は衣更月の本音を知ったことで、“心を捧げたいと思える主人”になれるよう奮起し、衣更月のほうも花頴の変化を感じ、少しずつ敬意を持ち始める。

 こうした2人の人間模様から、私たちが学ばされることは多い。人は、自分が思い望む生き方を貫き通そうとしてしまいがちだ。だが、“大切な存在”や“かけがえのない絆”を得るには、自身の価値観や人生観を見つめ直してみる勇気を持つことも大切なのだと感じさせられる。

 茶目っ気のある花頴と真面目な衣更月は、育ってきた環境や考え方がまったく違う。しかし、違うもの同士だからこそ、足りないものを補い合える仲になれる。これは私たちが生きている社会にも通ずること。自分と違う考えを持った相手とは分かり合えない…と、壁を作ってしまいやすいが、壁を作る前に一度、相手の目線に立って自分自身を見つめ直してみると、新たな発見が得られるのだ。

 本作は2人の青年の成長に一喜一憂できる、青春物語でもある。さまざまな人の優しさを受けながら花頴と衣更月がどんな主従関係を結んでいくのか、映画や書籍で楽しんでみてほしい。

文=古川諭香