「働き始めて発達障害に気づいた…」そんなとき自身や職場はどうすればいい? 大人の自閉スペクトラム症対策

暮らし

2019/5/20

『職場の発達障害 自閉スペクトラム症編』(太田晴久:監修/講談社)

 発達障害のひとつとされる自閉スペクトラム症(ASD)。主な特性とされるのは「コミュニケーションや対人関係が苦手」「興味の偏りやこだわりの強さ」の2つで、昨今ではネットなどで自身の悩みを吐露する人たちも少なくない。

 この特性のある大人たちは「職場でうまくいかないことが多い」と指摘するのが、自閉スペクトラム症の人たちに心得や対策を紹介する『職場の発達障害 自閉スペクトラム症編』(太田晴久:監修/講談社)だ。悩んでいる本人はもちろんのこと、職場や家族など周囲の人たちにとっても理解を深めるために役立つ1冊である。

■当事者は仕事場の「ホウレンソウ」が苦手? 問題を解消するヒントは…

 自閉スペクトラム症にはさまざまな症状があるが、例を挙げると、優先順位が付けられない、イレギュラーな場面に対応できないといった「実行機能」に障害があるケースが考えられる。

 本書によると、実行機能とは「目標を立てて効果的に実行していく能力」を指す。段取りを立てて変化に対応しながら仕事を進めるという、職場で多くの人がこなしていそうなことであっても、それがおぼつかず、ひいては周囲から「わかっているなら始めればいいのに」「やる気がない」と誤解されてしまう場合もある。

 その一例が、職場では欠かせないといわれる「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」が苦手、という症状だ。このホウレンソウが、当事者にとっては「タイミングも内容も意味もわからない」となってしまうため、先輩や上司からみると「報告がないまま、時間が過ぎてしまい、ギリギリになって問題が発覚する」という事態にもなりかねない。職場に混乱を招いてしまう原因にもなりうるのだ。

 そこで本書が提示するアドバイスは、仕事の「パターン」としてホウレンソウを決めてしまうという方法だ。例えば、1週間に1回、曜日と時間を決めておくだけでもよい。いわば“タスク”に組み込むというやり方で、カレンダーやスケジュール帳などにあらかじめ書き込んでしまう。そうすることで、先輩社員や上司とのコミュニケーションを改善することにも役立つはずだ。

■口頭での指示が伝わりづらい時には「視覚的な情報」も駆使する

 自閉スペクトラム症の人は、「情報処理能力」において困難が生じているケースもある。この際にとりわけ苦手だとされているのは、会話による「口頭の指示」である。一方で、「文字や図など視覚的な情報」は比較的処理しやすいことが多いという。

 形を変えればきちんと理解できるものの、ミスが続いてしまって「仕事ができない人」と言われてしまえば本人にとっての“生きづらさ”にもつながりかねない。そこで提案されているアドバイスのひとつは、指示を受けたら「聞いたその場で文字や図にしてみる」というやり方だ。あいまいさをなくし、できる限り具体的な形として残しておけば、後で迷ったときに振り返ることもできる。また、デスク周りを工夫して集中できる環境を作ることも有効だ。

 1点について集中できる一方で、多くの情報が一度にたくさん入ってくると混乱してしまうというのも自閉スペクトラム症にみられる傾向。職場の環境や条件によるだろうが、可能であれば、デスクの周囲をパーティションで区切る、あるいは作業に必要なモノのみ机の上に準備するなどして、仕事の処理をしやすい環境を整えることも心がけておきたい。

■周囲が「発達障害かも」と気づいてあげることも大切

 自閉スペクトラム症に悩む人たちにとって、“周囲の理解”も仕事をしていく上でとても重要だ。本書によれば、当事者は対人コミュニケーションや作業の遂行、感情のコントロールなどさまざまな場面で悩みを抱えている可能性がある。そのため、日頃の振る舞いをみて、「発達障害かもしれない」と気づいてあげることも大切なのだ。

 その上で、当事者に専門機関などの受診をすすめるというのもひとつの方法。ただ、「発達障害かもしれないから受診しては?」と問いかけるのはなかなか難しいだろう。もし促すのであれば、当事者にとっての辛さを軽減するメリットがあるということをしっかりと提示して、職場としてもあらかじめ「どういった支援ができるか」と検討しておく必要もあるだろう。

 発達障害・自閉スペクトラム症を抱える人びとは、仕事が“できない”のではなく“こなしづらい”場面があるということも、理解を深めるために必要なキーワードだ。本書をたよりに、当事者や周囲の人びとがともに活躍できる職場づくりが進むことを願いたいものである。

文=カネコシュウヘイ