常連客でカップリングを楽しむ……隠れ腐男子バーテンダーが繰り広げる、夜ごとの営み

マンガ・アニメ

2019/5/27

『腐男子バーテンダーの嗜み』(なる粉/一迅社)

 自分の心のすべてを他人に打ち明けられる人は少ない。誰しも“表”と“裏”を持ち合わせているものだ。『腐男子バーテンダーの嗜み』(なる粉/一迅社)の主人公もそのひとり。今夜も自分だけの秘め事を胸に、シェイカーを振るのである。

 キリッとした切れ長の目、整えられた黒髪、完璧に着こなされたカマーベストと蝶ネクタイ。完璧な外見と落ち着いた雰囲気を持つ響惣一郎(ひびき・そういちろう)は、とあるバーに勤めるバーテンダーだ。酒類に関する知識や技術を持ち、磨かれた接客スキルを備えた彼は同僚や客からの信頼も厚い。そんな彼には、ある秘密が……。響は、「趣味=BL漫画を描くこと」「アニメチェックは欠かさず、推しを愛してやまない」という“隠れオタクの腐男子”なのだ。

 彼の密かな楽しみは、来店客たちでBL妄想を繰り広げること。「常連客の上司×部下」や「マスター×古くからの友人であるイケオジ」など、実際にはただバーに酒を楽しみに来ているお客様たちを、勝手に彼好みの推しカプ(好みのカップリング)に作り替えているのである。妄想だけにとどまらず、モデルにしたオリジナルBL漫画を制作することもしばしば。しかし、彼は隠れオタク&腐男子のプロ。ときに自分の世界に没頭するあまり周囲に怪しまれながらも、しっかりとポーカフェイスを守り抜いている。

 ある日、バーに可愛い系男子の知多悠斗(ちた・ゆうと)が、見習いバーテンダーとして入店。響は彼の“白馬の王子様”を見つけるべく、勝手に奮闘を開始する。知多の接客デビュー日に訪れたのは爽やかイケメンの常連客、岩井さん。話を弾ませる2人を見た響は一安心、その尊さにそっと手を合わせながら「ありがたや…」と呟くのだった。しかし、ホッとしたのも束の間、偶然に来店した旧友を前にはしゃぐ岩井さんを見て、響は激しく動揺する。

“やばいコレやばくない”
“この二人やばくないコレ”

 理想的なカップリングを前にして、完全に語彙を失う響。そして、宅飲みに切り替えようと話す岩井さんたちの姿を脳内で変換して、幸せを噛みしめるのであった。

 胸を締め付けられる感覚、両手を合わせて拝む、思わずこぼれるニヤニヤなど……。一度でも推しを持った経験のある人であれば、響の行動や心理に共感するはずだ。本作は腐女子、腐男子、そしてすべての“推しを愛してやまない人々”に手に取ってほしい作品である。

文=山本杏奈