両性具有の王子が“嫁”入り。ふたつの国の思惑が交差するファンタジーBL『狼の花嫁』

マンガ

更新日:2019/6/13

『狼の花嫁』(りゆま加奈/フロンティアワークス)

『狼は恋に啼く』や『狼は花の馨り』に続く狼シリーズ3作目、『狼の花嫁』(りゆま加奈/フロンティアワークス)は両性具有の王子様が主人公の物語だ。前作では、狼とともに暮らす民族の中で稀に生まれる白い髪をもつ子ども(白鹿)の視点から描かれていたが、今作では、この民族に嫁入りに来る、隣国の王子・ルーイから物語は始まる。

 ルーイは、大国の第6王子であったが、王と侍女との間に生まれた子であり、人目につかないよう幽閉され、周囲の人々は彼を気持ち悪がった。ルーイがそれほどまでにひどい扱いを受けたのは、彼の生まればかりが原因ではない。それは、彼のもつ身体によるものだった。

 ルーイは陰と陽のどちらももった「半陰陽」、つまり両性具有であったのだ。自分の身体は好奇の目にさらされ、差別を受けた。時折挟まれる回想シーンには、どうやら若い男性から性暴力にあったかのような描写もある。劣悪な環境で育ってきたルーイは、自尊心も低く、内向的な青年だった。

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 そんな彼に、ある日王から命令が下される。それは長らく戦争関係にあった隣国の王子との結婚であった。嫁ぎ先は小さな民族の国ではあるが、そこを通らないと豊富な資源が手に入らない。大国といえど少し分の悪い王は、しかし彼の娘たちを嫁として渡すのはもったいないと、ルーイを渡すことを思いついた。侍女との子とはいえ、血はつながっているはずの父から「利用価値」のためだけに隣国に飛ばされることになったルーイ。彼は絶望の中、しかし拒否することによって自分の母親に危害があってはいけない、と従うことにしたのだった。

 冒頭は、なんとも暗い。ルーイのあまりにかわいそうな境遇を思うと心が痛む。しかし、彼が嫁入りしてから、少しずつ作中の雰囲気はあたたかく変わっていく。

 ルーイの夫となるゼスは、無愛想で言葉の少ない王子だった。ルーイの様子がおかしいことにいち早く気づき、彼が男であると知ったゼスは、しかし「人質」としては使えるとしてそのまま自分の番(つがい)としておくことにする。

「人質」といいながら、ルーイのことを気にかけ、彼の髪色を笑うものをたしなめ(ゼスの民族は黒髪が基本であり、ルーイの金色の髪は異国のものだった)、彼の笑顔にハッとした表情を浮かべる。ゼスは酒の席で媚薬を飲まされ、理性を失ってルーイを襲いかけたときも、彼の涙を浮かべる表情に手を止めた。「怖がらせてしまった」と後日謝るような優しさもある。

 不器用なゼスと自信のないルーイは、少しずつ、本当に少しずつだが、心の距離を近づけていく。

 そんな2人の間に、白鹿であり、もともとゼスの番候補であったユルール(ユルールは男だが、この世界では白鹿は神聖なものとして王子と番になることが定められている)が登場し、再び物語はうねりを見せる。ゼスと仲がよさそうなユルールは、しかしルーイにも、何だか意味ありげな視線を向けるのだ。

 狼とともに暮らす民族と、神聖な白鹿、そして両性具有の王子様。この三者の関係性には、どうやらもう少し謎がありそうな予感を残し、第1巻は終わる。果たして、ゼスとルーイは今後どう関係を深めていくのか。そして、ユルールの思惑とは。緊張感のある物語のあとのおまけ漫画には、狼とルーイの可愛らしい絡みもあって癒される。第2巻ではもっとルーイの笑顔が見たい。

文=園田菜々