ピザも食べたことない、甘いジュースはただの砂糖水…。あの人も貧乏だった! 不安定な現代を生き抜くヒント

文芸・カルチャー

2019/5/25

『私の「貧乏物語」――これからの希望を見つけるために』(岩波書店)

 経済学者で思想家の河上肇による評論『貧乏物語』(岩波書店)。第一次世界大戦下、当時の日本で社会問題化しはじめた“貧乏”について論じたものだ。あれから102年――。日本は新たなる“貧乏”問題と直面している。非正規雇用比率は4割近く、セーフティーネットも手薄なまま、多くの人たちが貧困や孤立にあえいでいる。

 “貧乏”とはなにか? そう問いかける本『私の「貧乏物語」――これからの希望を見つけるために』(岩波書店)を読んだ。経済的な困窮や精神的困難のなかで、どんな出会いがあったか? 苦難をどう乗り越えたのか? 各界で活躍する人々による36篇の短編によって構成される本書は、わたしたちに現代を生き抜く一筋の光を与えてくれる。

■蛭子能収

 蛭子が子供の頃は、近所中、皆が貧しかった。蛭子の家だけが貧しいわけではないので、貧しかったからといって悲しい思いをしたわけでもない。少し金持ちに見えた知り合いの家でごちそうになった甘いジュースは、コップの中に水と氷と砂糖を入れただけの飲み物だった。

 大人になって、初めて女性とデートをすることになったとき、「この日の飯だけはケチったらだめだ」と自分に言い聞かせて、まだ食べたことのないピザ店に入った。「ピザって食べたことある?」と蛭子が聞く。「いや、ない」と女性。「俺もない」と笑いつつ、出てきたピザを食べようとするも、食べ方がわからない。下手な食べ方を笑いながら、「食べ方、下手でもいいよね」と許しをもらいつつ、互いの仲が深まってゆくような夜になった。

■内澤旬子

「100万円を貯める。それだけを考えるようにした。100万円貯まったら、自分は自由になれる。実家という牢獄から出ることができる。会社というきわめて居心地の悪い組織からも離れ、片道切符でシベリア鉄道に乗って、行方不明になるのだ」――。

 男女雇用機会均等法が施行されたばかり。一般職と事務職という言葉の違いは知っていた。しかし、大学を出るときには自分とまったく同じ能力の男性が、同じ会社に入っても入り口が違うだけで、片方は独立して暮らせるだけの右肩上がりの貯金を手にしてゆく。こちとら、定年退職まで勤めたって、月に30万円もらえるのかどうか。しかも30過ぎればババアと陰口を叩かれる。

 とりあえずお金を貯めよう。内澤は貯金の鬼と化した。その後、会社を辞め、貯めた100万円でサハラ砂漠へ出掛けたものの日本に戻り、派遣社員として勤務する傍らでイラストを描き始め、実家を出て友人とアパートをシェアして暮らすこととなった。

 貧乏ならではの良さがある――。そう言うには厳しすぎる世の中だが、僅かでもそこに光を見出せたなら、どんなにか救われるだろう。お金があれば幸せなのか? いや、やはりお金ほど重要なものはない。そう自問自答しながら本書を読み、自分なりの生き方を見つけてほしい。

文=水野シンパシー