性格は変えられなくても生き方は変えられる! 「苦手」を逆手に取ってみよう

暮らし

更新日:2019/5/29

『にがてが消える心理学』(神岡真司/三才ブックス)

 誰しも得手不得手があり、「苦手」なことを克服するのは容易ではない。私の場合は超がつくほどの方向音痴で、スマートフォンのGPS機能が大変にありがたい。なにしろ来た道を戻るのだけでも容易でないから、デジタルカメラが世に出た時にはすぐに飛びつき、出かけた先では帰り道を記録するために、何度も後ろを振り向きながら撮影したものである。はたから見たら、不審者と思われたかもしれない。そして、GPS機能を利用している現在でさえ、心理的な負担を感じるため知らない土地へ行くのが苦手なのは変わらず、デブ症、もとい出不精となっている。しかも苦手なことは一つや二つではなく、まだまだある。考え始めたら不安感が増し、『にがてが消える心理学』(神岡真司/三才ブックス)にすがりつくことにした。

 さまざまな「苦手」に焦点を当てた本書は、ほんの少し視点や思考を変えることで苦手を克服する解決策のヒントを、心理学に基づいて提示する。特徴的なのは、「苦手」な事柄ごとに関連した調査のデータを示して、同様の悩みを抱えている人がどれくらいいるかが分かることと、克服するために役立ちそうな世界中の著名人の発言や格言などを添えてあることだ。「読書が続かない」という項目では、2017年に実施されたアンケートに「読書習慣がある」と回答した人は、39.4%との結果が載っており、古代ギリシャの哲学者アリスティッポスの言葉「読書は量ではなく、役に立つように読むのが問題である」との言葉がある。そして著者は、心理学的に見ると読書が苦手な人は3つの「固定観念」を持っていると指摘している。それは、「本は頭から読み進めないといけない」「買った本は最後まで読まなければならない」「本を読むにはまとまった時間が必要」というもの。著者は、「飛ばし読み」と「ちょっと面白くないな」と感じたら、さっさと閉じてしまうことを勧めており、読む時間も何かの待ち時間などの隙間時間を使って少しずつ読み進めばよいという。

 本書の前書きでも「どこから読んでいただいても構いません」と述べていて、第1章「自分のこういうところが嫌い」、第2章「どうしてもできないことってあります」、第3章「コミュニケーションがうまくいかない」、第4章「これができたらもっと明るい人生に」と分かれている。それぞれの章を眺めてみれば、自分に思い当たることが必ず見つかるだろう。なにしろ、「ちょっとしたことで頭に血がのぼる」項目で「日常生活で苛立ちを感じる人」は65.0%以上もいて、「あがり症ですぐ緊張する」項目には「緊張しない人は2割以下でしかない」というデータが載っているくらいだ。

advertisement

 もちろん「方向音痴でよく道に迷う」という項目も載っていて、2016年に実施されたアンケートによれば、80%以上が大人になっても迷子の経験があるというから心強い。いや、安心してはいけないのだけれど、スペインの諺には「濡れるのを恐れる者は鱒(ます)がとれない」とあり、出不精では損なのも確か。方向音痴に関する研究では、よく言われがちな男女の明確な違いなどなく、方向感覚に優れた人は目印となる「ランドマーク」を見つけることを意識していて、観察力に秀でているそうだ。さすがに、こうした能力は一朝一夕で身につくものではないが、まずは「自分の勘には頼らない」クセを持つことが大事だとのこと。そういう意味では私がデジカメを使い、来た道を撮影しておくというのは悪くなかった模様。おかけで当時の旅行写真は、観光名所よりも路地裏のような写真が多くなってしまったが、あれから20年以上も経っているから再び訪れてみたら面白いかもしれない。いっそ方向音痴を克服する練習も兼ねて、また出かけた先で帰り道を振り向きながら写真を撮ってみようか。スマホで写真を撮るとGPS機能で位置情報も記録されるし、何年か後に同じ場所を見てみるのを楽しみにしながら。

文=清水銀嶺