「異性化」で30代男・既婚者・平凡なサラリーマンが「女」に…!? 日暮キノコ先生最新作

マンガ

更新日:2019/6/13

『個人差あります』(日暮キノコ/講談社)

 男女の考え方や価値観の違いに、大きな溝を感じたことはないだろうか? 筆者は女性なので、夜間の外出や痴漢の恐怖、生理痛の辛さや毎朝の化粧の大変さを軽く流された時に、軽い絶望を感じる。だが、恐らく男性側も女性に思うことはあるだろうし、そもそも男女関係なく、人によって相手の辛さへの対応も大きく変わるのではと疑問を抱くこともある。相手の立場を心の底から理解しようと試みることは、とても難しいことなのかもしれない。

『個人差あります』(日暮キノコ/講談社)は、ある日突然、身体ごと性別が変わってしまう「異性化」を体験し、女性になってしまった平凡なサラリーマンの日常が描かれているマンガだ。本作は、『喰う寝るふたり 住むふたり』の日暮キノコ先生の最新作。『個人差あります』も、世の中の見え方が、男女それぞれで異なる様子が描かれている。

 本作の主人公は、磯森晶、32歳。女心を理解するのは苦手分野だが、100均チェーンの商品企画部で奮闘している社会人だ。彼は、小説家である2歳年上の妻・苑子と、冷めた夫婦生活を送っていることに悩んでいた。

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 そんなある日、晶は強い頭痛に襲われ生死をさまよう。搬送された病院で奇跡的に回復するも、家族の前に現れた時、「異性化」により身体が完全な女性になっていた。

「異性化」は、症例が非常に少なく、研究はほとんど進んでいない。落ち込む晶だが、妻の苑子が「女性としての先輩」となり献身的に支え、会社の同僚たちの助けもあり、徐々に女性生活に慣れ始める。

 男性の時なら経験しなかった満員電車での痴漢や、取引先でのセクハラにショックを受けることもあるが、見た目だけとはいえ姿が女性になったことで、妻の苑子が心に溜めていた不満を吐き出しやすくなり、夫婦関係は改善。メイクやファッションで気分が変わることや、生理の辛さなども体験し、女心が少しだけ理解できたことで、仕事でも活躍する機会が増えていった。

 だが、晶はある日、女性化してからも変わらず自分をフォローしてくれる職場の妻子持ちの先輩・雪平に恋をしていることを自覚する。まだ心に男の部分が残っているものの、彼の一挙一動が気になり、胸の高鳴りが抑えられない。様子がおかしいことは妻の苑子も気づいており、事態は怒涛の急展開を迎えるのだが――!?

 本作は、「異性化」により、男女両方の気持ちが理解できてハッピーエンド…とならないところが妙にリアルで生々しく、人の悲しい性を感じた。男女共に性欲はあり、欲情する。自分を献身的に支えてくれた妻や夫の存在を愛おしく思いつつも、過ちを犯し、後に引けない状態になることは、悲しいことに、ままあるのが実情だ。晶と雪平先輩の外れはじめたタガに呆然となるのはもちろん、異性化から元の性別に戻った人が、その方法を公表できない理由や、まさかのあの子も異性化していた事実など、波乱に満ちあふれたストーリーに一気に惹きこまれた。美談だけでは済まされない大人の本能や欲望にゾクゾクするマンガである。一筋縄ではいかない夫婦関係や相互理解に悩む方はぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ