神童と呼ばれた理系大学生が「数字を考える」に挫折! 2留の果てに出会った友人、数学との関係がおもしろい

マンガ

公開日:2019/6/23

『数字であそぼ。』(絹田村子/小学館)

 学生の頃に早々に挫折した「数学」。もはや筆者は「何がわからないのかもわからない」レベルで、数学に関して苦手意識が強い。ただ、テストや受験対策に関して言うと、公式を丸暗記して、問題を何パターンか暗記してしまえば、少なくとも赤点は免れる科目であった。そのため、死ぬほど苦労した記憶はないのだが、本質的なことを理解していないため、数学に必要な「考える力」は一切身に付いていない。結果として、数学が得意な人が見出すというロマンや美しさがわからない実情は、残念だと思い続けてきた。

『重要参考人探偵』『さんすくみ』の絹田村子先生の最新作『数字であそぼ。』(小学館)は、筆者のように、数学を暗記で乗り切ってきた大人たちに、真のおもしろさをわかりやすく伝えてくれるマンガだ。

 本書の主人公は、京都の名門・吉田大学理学部に合格した秀才・横辺建己(よこべたてき)。抜群の記憶力の持ち主で、一度見たものは決して忘れない彼は、地元では「神童」ともてはやされ、物理学者になりノーベル賞をとることを期待されていた。

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 しかし、彼は初日の「微分積分学」の授業をまったく理解できない。数学は定理や公式を覚えないとそれを使って問題が解けないと信じていた彼は、教授の「それではまず数字を作りましょう」から始まる講義や、「公式も考えてその場で作ればいい 理解していればできる」と言い放った学生の言葉はあまりに衝撃的だった。自分は考えてもいないし、理解もできていないことを悟った横辺は、ショックのあまり下宿先に引きこもり、2留してしまうのである――。

 そもそも、高校までは命題や定理を使って具体的な問題を解くことに時間を使ってきたのに対し、大学の数学は「定義・定理・命題を知って、ひたすら考えて理解し続けていく」ことがメインとなるのだそうだ。

 横辺はその後、自身を数学教室に勧誘する早乙女教授のおかげで引きこもりから脱却する。そして、スロットにハマったため、同じく2留した学生・北方と友人になるのだが、彼のおかげで「考える」とは一体どのような行為なのかを理解していく過程はとても感動的であった。特に、「円周の長さを求める公式は習ったが、円の面積の公式を知らない場合、どうやって円の面積を求めるのか?」という問題を、トイレットペーパー片手に、驚くべき方法で解答を出す場面や、「切断」という考え方を使って実数を定義していく場面などは、読者も「なるほど」と理解できる瞬間があり、それがたまらなく心地良かった。

 数学で挫折したにもかかわらず、常に数学のことを考え、数学の話ばかりしている横辺は、過去問を条件付きで売る猫田や、数学は得意だが汚部屋の女子学生・夏目など、変わり者(※全員留年してる)と友達になり、おもしろおかしい大学生活を送ることになる。「本質の理解」が重要事項であるという数学だが、自身ももう一度小学生まで遡り「考える」という行為を思う存分やってみたくなった。数学が苦手な大人こそ読んでほしい、とてもユーモラスなマンガである。

文=さゆ