「海賊王に、俺はなる!」あの頃のヒーローが、戦友として帰ってくる! 名声優13人が語る役者魂&仕事術

エンタメ

2019/6/29

『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』(藤津亮太/河出書房新社)

 子どものころ、ドラえもんやピカチュウのモノマネをしたことはないだろうか。

 アニメ、洋画の吹き替え、番組ナレーション、果てはカーナビの声。声優という職業はとても身近にあるのに、我々は「特殊」な、近くて遠い仕事だと思っている。

『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』(藤津亮太/河出書房新社)は長年業界の第一線で活躍する、ベテラン声優13人の「声優道」をまとめたインタビュー本だ。アニメ評論家である著者が代表作からちょっとマニアな役柄まで、演じた役柄について尋ねながら、彼ら自身の魅力を浮き彫りにしていく。

 声の職人、とも呼ばれる声優。各々が語る濃厚な演技論や熱い思いには目を瞠る。常に活躍している彼らにも、苦難や挫折はあった。その言葉は厳しさと仕事への愛に満ちていて、アニメファンだけではなく、幅広い層への「働くヒント」が隠されていた。

■ドラえもんスネ夫役・関智一が悩んだ「70点の壁」

 ドラえもんのスネ夫、妖怪ウォッチの変な執事・ウィスパーから、落語アニメの落語家まで、関智一の演じる役柄は幅広い。その多彩ぶりは業界内からも評価が高いようで、本書では他の声優のインタビューから名前が出ることも多かった。しかし、関自身は、自身の器用さを「武器でありトラウマだった」と表現する。

「お前はいつも70点の芝居ばかりする」と怒られたりもしたんです。「100点か0点かどちらかにしてくれ。70点の芝居されたら直しようがない」って。でも、そうしようと思ってやっているわけじゃないので、結構悩みました。

 器用であるがゆえに表面だけを取り繕えてしまう、という課題。関は舞台というフィールドで自分をさらけ出すことでの「器用さ」と向き合っていく。その結果、声の仕事に並行し、自分の劇団で公演を打つ、両輪で走る役者が完成する。しかしまだ満足はしていないようだ。

「ここは俺の居場所だ」とは決めずに、自分で居場所を移動していかないとダメだと思って。

 キャリアを積むと、自分の「得意分野」が出来上がってくる。こと声優は「当たり役」があればそれに準じた役のオファーが来るのが普通だ。しかし今までやってきたことにすがるのではなく、常に「ブルーオーシャン」、競合相手のいない未開拓の部分を探し続けることが重要だと関は語る。

 誰もが認める売れっ子の声優であっても、貪欲に自らを向上させようとする。関が多く演じている熱血ヒーローの姿が重なる「熱さ」だった。

■ONE PIECEルフィ役・田中真弓が語る「もがき」と「目標」

 平成生まれで、田中真弓の声を一度も聞かずに育った日本人は珍しいだろう。『ドラゴンボール』のクリリン、『忍たま乱太郎』のきり丸、そして『ONE PIECE』のルフィ。おなじみの声を持つ彼女のキャリアのスタートは劇団の養成所であった。入所すぐにアニメに抜擢。生徒が劇団所属の先輩を差し置いてキャスティングされるという状況で、祝福されたスタートではなかったそうだ。

 その後、少年役を多く演じるようになり、『天空の城ラピュタ』など日本を代表するアニメ作品に次々出演。しかし当人は、それでも「声優」と呼ばれることに違和感があったと言う。

30代~40代の頃、声優というレッテルが取れないと感じたときに、すごくもどかしさはありました。雑誌のインタビュー記事に「声優・田中真弓」と掲載されているので、「“女優”になりませんか?と尋ねると「女優なんですか!?」と驚かれるんです。

 役者でいたいという意思と、望まれる役割、演技とのギャップ。わだかまりがなくはなかったが、徐々に折り合いが付けられるようになってきたそうだ。田中は最後に、

死ぬまでには……「田中真弓」という看板だけで出られるようになりたいんです。

 と語る。アニメ史に残る作品に出演してもなお、自らの名のみで舞台に立とうとする。やりたいことを仕事にした職人の業を感じる、インタビュー最後の言葉だった。

■声優も私たちと同じ社会を生きて頑張っている

 ライダー変身!のかけ声、ピカチュウの明るい鳴き声、日曜が終わることを感じるカツオの声…。声優の仕事は私たちの思い出と密接だ。しかし、声優そのものに対して具体的な印象や思い出を持っている人は少ないかもしれない。本書はそんな声優たちを“一緒に社会を生きる大人たち”なのだと教えてくれる。

 本書で紹介されている13人の声優たちは皆、常に試行錯誤を繰り返し努力した結果、人とのつながりで仕事が決まったと語っている。誰もが凄まじく貪欲で、常に向上心を持っていることに驚かされるだろう。

 ぜひこの本を読んで、尊敬できる大人としてのかっこよさにしびれてほしい。きっと、頑張るあなたを勇気づけてくれる。

文=宇野なおみ