元陰キャ女子高生の恋…味方はオネエとクソリプだけ!? 頭でっかちJKの青春恋愛ストーリー

マンガ

公開日:2019/6/30

『オネエとクソリプ1』(吉川景都/竹書房)

 猫との共同生活を描いたほのぼの日常動物コメディ『片桐くん家に猫がいる』(新潮社)、昭和初期を舞台に妖怪と暮らす怪異譚『鬼を飼う』(少年画報社)など、コメディもホラーも手がける吉川景都の新作『オネエとクソリプ』(竹書房)は、陰キャな女子高生の淡い恋物語を描く4コママンガだ。

 中学時代、ぼっちの陰キャ女子だった鮎沢みつる。高校デビューしてイメチェンして友達もできたものの、内面は相変わらず陰キャのまま。同じクラスの爽やかイケメン花村くん(彼女なし)に片思いしたみつるだけれど、自分に自信がなくてまともに話せない。

 SNSで他人のクソリプを眺めるのが趣味だったみつるは、そのノリで自分自身にツッコミをいれるクセがあり、ついには頭の中に“クソリプ”と“オネエ”という脳内キャラが住みはじめる。

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「FF外から失礼しまーーす! あなたみたいな陰キャが彼と釣り合うと思ってるんですかあ?」と、いつも煽ってくるひねくれ者のクソリプ。「大丈夫、とにかく笑顔で返事してみなさい」と、いつも前向きに女言葉で励ますマッチョなオネエ。そんな独特なキャラクターが脳内論争を繰り広げつつ、みつると三人四脚で恋を実らせるために奮闘する姿が可笑しい。

 男子と一緒のカラオケに誘われたのに怖気づくみつるを「いくって決めても私服はクソダサいやつしかないですよね~~ww 幻滅されそ~w」と、クソリプが遠慮なくディスれば、すかさずオネエが「いいのよ服なんか。ちょっとナチュラルめにきれいなメイク軽くしとけば」と優しくフォローする。

 偶然、花村くんと話せたことを喜ぶみつるに「ラッキーで済ませるの? これからずっと偶然でしか話せなくていいの? 一歩踏み出せない?」と、オネエが背中を押せば、クソリプは「つりあうわけねぇじゃん花村と。あっちはスターでこっちは平均以下」と現実を突きつける。

 気分を底辺まで落とすクソリプと、気持ちを盛り上げるオネエのアップダウンの応酬が絶妙なのだ。

「うるっさいなわかってるよ。私が一番わかってる」。いつも二人の言葉はみつるの心に深く突き刺さる。何故ならクソリプもオネエも、みつるの本音の声だからだ。

 他人を勝手に悪く見て、それでいて好きな人に話しかける勇気のない自分への劣等感の表れだ。

「変わりたいなぁ」。ときにクソリプへの怒りを原動力に変えて、ときにオネエの声援に駆り立てられて、一歩、一歩、少しずつ成長していくみつるの姿が胸を打つ。

 人には言えない黒歴史があったり、カラオケで持ち歌がなかったり、文化祭で裏方が好きだったり、男女問わず陰キャなら通じるあるあるネタに共感して笑ってしまう。

 プラス思考もマイナス思考も、多かれ少なかれ誰にでもあるものだ。それを「クソリプとオネエ」というSNS世代ならではのキャラクターに変換したのが本作の持ち味になっている。

 見た目は普通でも、もしかしたら誰の中にもこういう面白いキャラが一人や二人は隠れているのかもしれない。

 陰キャで何が悪い。陰キャでも青春を楽しんでいいんだ。自分の中のクソリプとオネエがそう囁いているような気がする。

文=愛咲優詩