ドラマで共演するふたりの俳優が、役作りのため「恋人ごっこ」をすることに

マンガ

公開日:2019/6/28

『25時、赤坂で』(夏野寛子/祥伝社)

 夏野寛子氏が描くBL『25時、赤坂で』(祥伝社)は、ドラマの現場が舞台の物語だ。

 主人公である白崎由岐は、ずっとエキストラの仕事や劇団の公演に出ながらバイトで食べている26歳。そんな彼が、年明けからスタートするゴールデンタイムのテレビドラマでメインキャストに抜擢された。おまけに脚本は売れっ子劇作家。恋人役の相手は同じく売れっ子俳優の羽山麻水。

 ちなみに、羽山と白崎は、同じ大学の映画研究会で2歳違いの先輩後輩同士でもあった。

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 大して話したことのない自分のことを覚えていた羽山に白崎は驚くが、それにはわけがあった。羽山がモデルとして事務所に所属することが決まった日の飲み会の席で、白崎が「は? 羽山さん 演技仕事しないんですか ありえねぇ どうかしてますね」と低い声で怒ってきたというのだ。若気の至りだったのだろう。すっかり青ざめる白崎。それでいて、演技に対する彼の姿勢はやはり真摯であり、その変わらない姿に羽山は吹き出してしまう。

 そして、その日の夜、酔いつぶれた羽山を彼の自宅へ送り届けた白崎は、半ば襲われる形で一夜を共にしてしまう。翌朝、羽山は自分がゲイであることを告白し、そして白崎も同じじゃないのか、と問うのだった。

 その質問には答えずに帰宅した白崎だったが、撮影が始まると同時に彼の前に高い壁が立ちはだかることになる。羽山に対して「気持ち悪い」と拒絶するシーンのセリフに、どうしても気持ちが入らない。なぜなら彼とベッドで過ごす時間がすごく気持ちよかったから…。

 まともに恋愛をしたことがない白崎は、芝居のコツを掴むため、羽山とセックスをする関係になる。女の子とはどうしてもしっくりこなかったセックスが、羽山相手だとこんなにも気持ちいいのだ、という発見がある。白崎の乳首をなめるときの羽山の長いまつ毛とか、それに顔を赤くする白崎の瞳のきらめきとか、ふたりの汗のしたたりとか、セックスシーンでも画力をフル発揮という感じで、とにかく美しくてエロい。

 すでに知名度もありファンも多い羽山に比べ、白崎は無名の新人。最初こそ羽山の相手役であることにネット上でのバッシングなどもあった。しかし、ドラマが放送されるにつれて、白崎の演技力は一気に認められることとなり、世間は手のひらを返したように彼を持ち上げ始める。テレビやCM出演の問い合わせが続き、昨日まで気づきもしなかったコンビニ店員が目を輝かせてドラマの感想を伝えるのであった。ドラマの撮影現場やSNSのトレンドの描写など、細部までリアリティがあり、こだわりを感じる。

 羽山のことが好きだけど、あくまで役作りのための関係。挿入されたことがない白崎に、羽山は決して最後まではしない。そんな羽山に、白崎はだんだんとじれったくなってくる。優しい彼とのあまりに甘い日々に「どっちがフィクションなんだか」とぼやく白崎は、気持ちが募れば募るほど、演技が磨き上げられていくから皮肉だ。

 撮影が進むにつれて、「恋人ごっこ」の終わりも近づく。はたから見れば、どう考えたって両片想いのふたりなのに、お互い不器用ゆえすれ違い続けていてじれったい。かりそめの関係性だからこそのときめきが凝縮された物語だ。

文=園田菜々