『学研の図鑑』がやってくれた!! 女房を質に入れても読みたいキン肉マン『超人』図鑑!!

マンガ

公開日:2019/6/30

『学研の図鑑』は、子供の自分にとって「本物を識る」最高のツールだった。ずっしりと重たい図鑑を外箱から引き抜き、机の上に開くときの感触。教科書や絵本やマンガとは違う、少し「偉い本」だった。「昆虫」図鑑で、アトランティスオオカブトやサタンオオカブトを眺めては「ボリビア行きてーなー」とため息を吐いたものだ。

 それから数十年後に、「アトランティス」が表紙で、「サタンクロス」が丸々1ページを使って学術的に解説された「超人」の図鑑を手に取る日が来ようとは、誰が想像しただろうか?

「学研の図鑑50周年」にして、「キン肉マン連載開始40周年」の節目に、両者が最強のタッグを組んだのが、この『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』(学研)である。

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 CGではなく、リアルなフィギュアの「写真」が表紙というだけでも、「そうそう、これが学研の図鑑だよ」とうなずいてしまうが、『学研の図鑑』といえば、少年少女の知的好奇心をくすぐる、真面目な学問の本だというイメージがある。『週刊少年ジャンプ』から飛び出した人気作品の、しかも架空の「超人」を題材にした一冊というのは、いささかミスマッチな気もする。

 昭和、平成の時代には「ケイブンシャの大百科シリーズ」もあったし、『キン肉マン』自体も何度か特集ムックなどが発売されていて、目新しさはないのでは……などと思っていた私が甘かった。果たして、本書はガチの「図鑑」だった。

『キン肉マン』シリーズには、700以上の超人が登場する。作品の世界観で言えば、「正義超人」「悪魔超人」「完璧超人」などとカテゴリ分けされてしまうのだが、それは「キャラクターブック」でしかない。

「超人」が実在しているという仮定のもと、「生物的特徴、形態、能力、進化の系譜」などから分類し紹介することで、キャラクターを学問に昇華させ、成立させている徹底的なこだわりが、本書を「図鑑」たらしめているのである。

 目次からして、「変身超人のなかま」「宇宙超人のなかま」といったカテゴリ分けの先に「魚類のなかま」「爬虫類のなかま」が並ぶあたり、いかにも『学研の図鑑』らしくて楽しい。

 登場する超人たちは、原作マンガの中で1コマしか登場しなかった謎の超人や、読者からの超人募集で選ばれただけの超人なども網羅されている。「7人の悪魔超人編」で一瞬だけ登場した「おしりの超人」まで紹介されているから驚きだ。

「体の部位を発達させた超人」である「プリプリマン」は、「悪行超人・身長191cm・体重136kg・超人強度97万パワー・カメルーン出身」だった。
(註:『キン肉マンII世』関連では、作品内でも活躍の場があった)

『週刊少年ジャンプ』での連載開始号の表紙では、キン肉マンは「緑色」の覆面をかぶっているのだが、そのあたりの謎も、本書では解き明かされている。

 リアルタッチで描かれたイラスト、各超人のキン肉マンとの身長差を示すシルエット表示、「実物大バッファローマンの角」などの「写真」コーナーには想像をかき立てられ、ページをめくっているうちに、この世界のどこかに本当に超人がいるような気がしてくる。

 そして、私が個人的に大好きなのは、各ページの下に1行ずつ記されている「肉ちしき」という小ネタコーナー。

肉ちしき:ペルーのナスカの地上絵の中でも有名なサルの地上絵は、ベンキマンの祖父いわく古代人のウンチをする姿を描いたものという。

 かつて、ケイブンシャ『仮面ライダー大百科』の「ライダーよもやま話」に心ときめかせた私のように、小さな読者たちが「肉ちしき」で夢をふくらませてくれることうけあいだ。

 学研の特設ページによれば、原作者のゆでたまご先生をして「今後『キン肉マン』を描くにあたっての教科書になる」と言わしめた、この『超人』図鑑。

 かつて超人募集で「ジャンクマン」などが採用された経歴を持つ編集者の『キン肉マン』への愛、自分のタッチを抑えて図鑑用に数百体もの超人を描き続けたイラストレーター陣の『キン肉マン』愛、原作者ゆでたまご先生の作品への愛が生み出した――そう、心に愛がなければスーパーヒーロー=『超人』図鑑は存在しえなかった。超人プロレス実況のアデランスの中野さんは、こう言うだろう。

「女房を質に入れてでも読まなあきまへんで!」

文=水陶マコト