芥川賞作家・羽田圭介が描く、危なくて可笑しい人間の業『ポルシェ太郎』

文芸・カルチャー

2019/7/13

『ポルシェ太郎』(羽田圭介/河出書房新社)

 若者の車離れが指摘されるようになってから久しい。警察庁の運転免許統計によると、指定自動車教習所の卒業生の数は1992年に255万485人だったが、2018年には152万9334人に減少している。

 バブル期と比べると、デフレが続いており経済的な状況は決してよいものとは言えない。都心では鉄道網が張り巡らされており、車で移動する必要性はない。それでも、車に愛着を持つ若者は一定数、存在している。

 芥川賞作家・羽田圭介の新作『ポルシェ太郎』(河出書房新社)は、かつては車に興味を持っていなかった主人公の大照太郎が高級車・ポルシェに魅入られていく姿を描く。イベント会社を起業したばかりの太郎は、自分の年収と同額のポルシェを購入。売れている気配のない美女芸能人にアプローチをするが、肝心のポルシェは予想外に女受けが悪い。そんな中、新宿の裏社会ネットワークの男に仕事を持ちかけられ、欲に駆られて危ない橋を渡り始める。

 サラリーマンとして普通に生活していた人間が、独立したことで小金を持つ。すると、周囲との差異が生まれ、均一化していた思考にブレが生じる。心が不安定な状態だと、言っていることとやっていることが合致しなくなっていく。

 太郎の行動がまさにそれだ。ビデオゲームをやっていそうな人を揶揄した後に、同窓生とビデオゲームで戯れる。人のことを「話を聞いていない」と非難するも、後に人から「会話をしていない」と指摘される。芸能人の契約形態に批判をしつつも、自社の芸能事務所のタレントに対する雇用形態を批判しつつも、自社社員へその形態を折り込もうとしている。

 傍から見たら愚物のように感じられるかもしれないが、当の本人は至って真面目なのである。

「さっきの中高生たちは学校教育でちゃんと、若いうちにポルシェに乗っている男は格好いいものだと教え諭されるべきだ」

 太郎はこんなことを考える。人は本気で好きなものに対して、盲目となる。しかし、第三者の目から見ると奇異な意見だと感じてしまう。本作は読者を選ぶ小説なのだと思う。主人公に共感するのか、皮肉たっぷりの可笑しい物語だと思うのかはあなた次第。ただ、間違いなく本作には人間の業が表現されている。

文=梶原だもの

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