16歳の少年と26歳OL。親同士に因縁のあるふたりを含む男女5人「同じ屋根の下」の下宿ストーリー

マンガ

公開日:2019/7/15

『水は海に向かって流れる』(田島列島/講談社)

 2014年『子供はわかってあげない』(講談社)で話題になった、田島列島氏の新作『水は海に向かって流れる』(講談社)の1巻が2019年5月発売された。

 高校進学を機に、叔父の家に居候することになった少年。だがその家には年上女性の榊さんをはじめ、複数人の下宿人が…。

 王道下宿ものと言っても過言ではないこの物語をレビューしていく。

advertisement

■高校生男子がめぐり逢った因縁と大人の女性

 16歳の熊沢直達(くまざわなおたつ)は、雨の中、駅で叔父の茂道(しげみち)を待っていた。高校進学から叔父の家に下宿するためだ。そこに傘を持ってやってきたのは、26歳OL、榊千紗(さかきちさ)。大人の女性にちょっとときめく直達。

 実は茂道は、3人の男女と同居していたのだ。しかも茂道を含め、皆どこか変わり者である。かくして直達を加えた男女5人が共同生活を始める。

 まさに王道の下宿ものだが、ただの日常ものではない。直達と千紗には因縁があった。

 10年前、直達の父親と千紗の母親はW不倫をして駆け落ちしていた。

 偶然この事実を立ち聞きした直達は、千紗が子供(直達)には関係ない、知らないなら知らせる必要もない、などと考えていることを尊重しようと思う。

 発売された1巻では、このことで下宿というある意味“密室”の空気が悪くなり、登場人物たちがストレスを抱えて生活するところが描かれる。

 下宿の住人で全てを知る成瀬教授。直達の父親が不倫した相手のことは知らない茂道。直達と一緒に立ち聞きした同級生女子の泉谷。そして千紗は直達が事実を知ったことを知らないでいる。そして読んでいるこちらはもやもや、やきもきする(笑)。

 かなりシリアスではあるのだが、田島氏のやさしい絵のタッチで描かれると、独特の可笑しみがある。

■榊千紗には家族がいない

 下宿ものにはボーイ・ミーツ・ガールな展開もつきものだ。本作もご多分にもれず、直達は駅で会った大人な千紗にコロッと惹かれる。因縁があるとも知らずに。

 でもその千紗は普通の大人な女性ではない。

 10年前にW不倫の挙句に“帰ってこなかった”母親のことでショックを受けており、恋愛はしないと言ってはばからない。

「子供には関係ない」と言いながら、父親と普通に暮らして何も知らず「いい子」に育った直達を思わず意識してしまう。

 彼女が抱いた10年前の複雑な感情、“憎悪”は、まだ消え去っていない。

 ただ千紗を子供の頃から知る成瀬教授に、いつまで16歳でいるつもりなのかと問われる。千紗の中でふと決意のようなものが生まれる。

 この下宿は、家族と離れた大人たちと、実家を出た直達が作る場所だ。家族と言うほどちゃんとしていないけれど、皆で暮らすことで主人公の直達はきっと成長するだろう。

 下宿で暮らし直達と出逢ったことで、千紗もまた、変わっていくのかもしれない。

■雨から始まる『水は海に向かって流れる』

 ほのぼのした雰囲気、でも状況はハードボイルド。前作『子供はわかってあげない』と同じく、あっという間に田島氏の世界に引き込まれるのが本作だ。

 1巻が出たばかりで、物語はきっとまだまだ続く。ラストはどうなるのだろうか。もやもやも、過去の出来事も、決意も、大人の女性への憧れも、トラウマも、雨のように降り注いでくる物語。でもその水は流れ、やがて海でひとつになって大団円を迎えるのだろうか。

 第1話で別々の傘をさしていた直達と千紗は、作中で小さな傘を二人でさす。

 雨の中で出逢った二人の物語、新感覚の下宿ものを、楽しんでみて欲しい。

文=古林恭