知識がなくても創造力で勝負! ネジ屋に就職した新入女性社員の奮闘記

文芸・カルチャー

2019/7/18

『就職先はネジ屋です』(上野 歩/小学館)

「初心忘るべからず」ということわざがある。何事も始めたときの気持ちを忘れてはいけないという意味だ。仕事においても、新入社員時代の気持ちを忘れないでいることは大切だろう。しかしながら、長い間同じ仕事を繰り返していたり、社内の人間関係に気を遣ったりしていると、だんだん新入社員の頃に持っていたやる気は失われていく。それどころか、なぜこの会社に就職したいと思ったのかさえ忘れてしまうことがある。そんな仕事に対する情熱を失いつつある人にぜひ読んでほしいのが『就職先はネジ屋です』(上野 歩/小学館)だ。

 物語の主人公は三輪勇(ユウ)。第一志望だった商社の最終面接で不採用になってしまった彼女は、母親が社長を務めるミツワネジに就職する。ネジについての知識が全くなかったユウだが、研修先で転造ネジを作ったことをきっかけに、新しいネジを提案することに興味を持つようになる。研修を終えたユウは、メーカーに対して積極的に飛び込み営業を行うも、提案したい商品がない状態では全然うまくいかない。悩んでいたある日、ユウは新しいボルトのアイディアを思いつく。試作品があれば新規開拓ができるのではと、彼女は行動を起こすのだった。

 この作品の魅力はユウの仕事に対するまっすぐな姿勢だ。ミツワネジの工場長や営業先の社長など、ユウが仕事で関わる人たちは彼女より一回りも二回りも年上の人ばかり。しかもユウは、工学部出身でもなければネジに関する知識もない素人。しかし、それでもユウはいつも堂々と振る舞っている。わからないことはわからないと素直に言い、知りたいことはどんどん質問して知識を身につける。自分よりずっと経験も知識も豊富な人たちに対しても物怖じせずに意見を言い、実践すべきだと思ったことにまっすぐ突き進むのだ。

 持ち前の素直さや好奇心を武器に、新規の企業とのネットワークを構築していくユウ。しかし、うまくいくことばかりではない。社内には改革を好まない人もいる。そのような人にとって、営業先の開拓を行おうとするユウはやっかいな存在だ。しかもユウは社長の娘。「娘だから特別扱いされている」と思われることもある。そのうえ、これまでは主に商社を通じて注文を受けていたのを、メーカーに営業して直接注文を受けるようになったことで、商社からも目の敵にされてしまう。これらの困難に対して、経験も技術も未熟な彼女がどう立ち向かうか。キーワードは「創造力」だ。

 現状に満足せず常に上を目指そうとするユウの姿勢、そして、ときに弱気になりながらも負けずに創造力で困難を突破していくまっすぐな気持ちは、少しずつミツワネジの社員たちの心を動かしていく。社長の母親もユウの努力を認め、それまであまり親子らしくなかった2人の関係にも変化が訪れる。

 また、作品内に登場するネジの仕組みや歴史についての情報も本作の魅力だ。ユウが研修先で転造ネジを作る場面では、ネジが完成するまでの工程やネジが締まる仕組みなどが解説されている。ネジオタクである同期の辻がネジの知識を披露する場面もあり、身近なところにあふれているネジのすごさを実感した。

 ちなみに著者の上野 歩氏は、本作のほかにも『削り屋』『わたし、型屋の社長になります』など、製造業に就職した主人公の奮闘を描いた小説を書いている。本作の中には、これら2作品の主人公が少しだけ登場しているので、気になった人はそちらの小説も併せて読んでみてはいかがだろうか。

 ユウの素直さや諦めない心が、読者に仕事への情熱を与えてくれる1冊。理不尽なことがあっても、信念を持って真摯に仕事に取り組むユウの強さに憧れる。彼女を応援したくなるとともに、自分も彼女のようになりたいと思った。これから就職する学生や、仕事への情熱を取り戻したいビジネスパーソンにおすすめ。

文=かなづち