「トイレの花子さん」の出自が明らかに!? 日本の怪異をビジュアル解剖!

文芸・カルチャー

2019/7/21

『日本現代怪異事典 副読本』(朝里樹/笠間書院)

 夏といえば、怪談のシーズンである。人はどうして、怖いものを求めるのか。そこに魅力を感じるのか。想像力を膨らませば膨らますほど、それは身近に感じられる。トイレで、路地で、あるいは人気がなくなった学校や会社で。

 怪異界のベストセラー『日本現代怪異事典』がより分かりやすく、よりおもしろくパワーアップして、『日本現代怪異事典 副読本』(朝里樹/笠間書院)として蘇ってきた。日本の怪異が、徹底的にビジュアル解剖されている。

 巻頭では、怪異の代表格として知られる「花子さん」が解剖されている。花子さんは、なぜ大ブレイクしたのか。

 本書が歴史を遡ったところ、花子さんの登場は半世紀以上前になる。松谷みよ子著『現代民話考7』に、1948年頃の話として、岩手県和賀郡黒沢尻町(現北上市)での話として記述されている。

ある小学校の体育館の便所で、奥から三番目の個室に入ると「三番目の花子さん」という声が聞こえ、便器の中から白い手が伸びてきたという。

 花子さんは、こちらが呼び掛けるのではなく、呼び掛けられる存在だったのだ。初期の花子さんは、“カミをくれ”の怪談と同様に、便器から伸びる腕の怪異のいちバリエーションだった。ちなみに、便器から腕が伸びてくるという怪談は、江戸時代にすでに確認でき、その正体は河童や狸だったらしい。花子さんは、1990年代に入って、「学校の怪談ブーム」のきっかけとなる。火付け役は、常光徹著『学校の怪談』と、日本民話の会学校の怪談編集委員会編著『学校の怪談』と見られる。やがて、花子さんはヒーロー化されるなど、多様な姿を見せていく。

 本書は、花子さんが大ブレイクした背景として、出現場所が子どもたちにとって身近な学校のトイレであったことを挙げている。トイレは毎日使う。そこでは無防備になる。このシチュエーションが、子どもたちの想像力を大いに刺激した。

 ところで、本書は類似怪異、出没場所、使用凶器、都道府県別など、さまざまなくくりで怪異をまとめている。「第2章 出没場所」の「トイレ」の項を開いてみると、あるわあるわ…「青い紙」に始まって、「赤マント」「カマキリさん」、先述の「河童」や「カミをくれ」、「クソカケババ」「二〇センチの人」「ブラック花子さん」「ムナカタ君」など、実に119の怪異の名前が列記されている。そして、これら119の怪異は項目として、あるいは名前だけで本書のどこかに登場している。

 古くから語られているトイレの河童は、厠の下から手を伸ばして尻を撫でていたらしい。命を取らないまでも気味の悪い怪異だが、トイレには悪い存在だけでなく、「厠神(かわやがみ)」などと呼ばれる神がいる、という信仰も古くから残っている。トイレとは、かくも不思議な空間なのだ。そう考えると、用を足すだけの退屈な空間ではなく、エンターテイメントスペースと捉えられるかもしれない。

 ちなみに、コラムでは“著者の独断と偏見による”怪異のベスト3が紹介されている。

邪悪な怪異 ベスト3

1位 リアルの悪霊 
2位 カン、カン 
3位 ヤマノケ

恐ろしい怪異 ベスト3

1位 カマキリさん 
2位 コトリバコ 
3位 猿夢

可愛い怪異 ベスト3

1位 ヒヨコの化け物 
2位 ケセランパサラン 
3位 ツチノコ

 解説が興味深い。ぜひ、本書に当たり、非日常の世界にふれて、背筋に冷たいものを感じてもらいたい。

文=ルートつつみ