映画『おくりびと』の美術協力をした葬儀屋3代目が、世にはびこるデマや都市伝説を痛快斬り!!

暮らし

2019/7/31

『遺体と火葬のほんとうの話』(佐藤信顕/二見書房)

 葬儀場や火葬場の建設反対のニュースを目にすると、自分だって死ぬのに何を言っているんだと思う。私の地元でも同様の反対運動がありテレビで取り上げられたが、反対派の中心人物が付近一帯の大地主だったため、地価の下落を嫌ったのだろうと冷めた目で見ていた。では、建設を反対された側の業者はどう思っているのだろうとボンヤリ考えていたら、YouTubeで「葬儀・葬式ch」というチャンネルを見つけた。配信主が語る同業者の弁によれば、建設反対の幟を掲げられるのは無料で宣伝してくれているみたいなものだから、むしろ有り難いんだそうな。そして配信主である有限会社佐藤葬祭の社長の話が、『遺体と火葬のほんとうの話』(佐藤信顕/二見書房)として一冊の本になったので紹介したい。

 アカデミー映画賞の外国語映画賞を受賞した『おくりびと』で美術協力を務めた著者は、祖父の代から続く葬儀社の三代目。10歳頃から父親の仕事の手伝いをしていて、神奈川県警の要請で首吊り自殺の現場に赴いたときにも怖がらなかったという話に驚いた。ちなみに、普通は遺体の収容などは警察がやることだし、そもそも医師が死亡診断する前に民間業者を現場に立ち入らせること自体が異常で、他の都県では経験したことがないそうだ。そのうえ死亡診断の料金も、都内は無料、東京都武蔵野市などで7000円か夜間なら2万円くらいのところが、神奈川県では昼間でも4万円くらいかかるものだから、「神奈川県民のみなさんがつくづく気の毒になります」とまで書かれる始末。

 そんな著者が、葬儀や火葬にまつわる都市伝説やデマをバッサバッサと斬り捨てていくのが実に痛快。“「死体洗いのバイト」は本当にあるのか?”“死ぬと穴からいろいろ出るの?”“火葬の熱さで生き返る!?”といったものを、自身の経験だけでなく資料を調べ、火葬師や納棺師などの専門職の協力を得て答えている。「死体洗いのバイト」については、遺体を漬けておくとされるホルマリンが揮発性の劇薬だから、それだけで嘘だと断じている書籍もあるが、「ホルマリンのプールは実在する」ことを著者は突き止める。医学部の解剖実習に使う遺体の組織を長期間保存するためにホルマリンで固定する必要があり、その後でホルマリンをアルコールに置換する作業を行なうそうだ。その作業は「専門の技官」がすると結論づけ、著者はただ斬り捨てるだけでなく都市伝説にトドメまで刺す。

 本書には火葬師との対談も収録されていて、某宗教学者(本書では実名)の「お骨は高温で焼き切れるから、あんな大きな骨壷はいらない」という言説を明快に否定している。なにしろ、ひところ映画で話題になった“セカチュー”でオーストラリアの観光地にまいたシーンみたいに骨が粉になるくらいに焼くのも無理。実用されている温度が800~1000度くらいで、火葬炉の耐火温度の限界が1300度くらいなのに対して、骨の主成分であるリン酸カルシウムを焼き切るには3000度を超えなければならないそうだ。ただし、成人の火葬を想定して作られた炉を使い、産まれたてで亡くなった赤ちゃんの柔らかい骨を残すのは難しく、なんとか残してあげられたときには遺族に喜ばれたという。しかしそれも、自動制御の炉が普及するようになって、ますます難しくなっているらしい。

 葬儀といえば、費用や作法について気になる人もいるだろう。最近では、通夜と葬儀を同日に執り行う「一日葬」や、火葬のみの「直葬」といった簡素なスタイルを選ぶ人も増えてきた。故人のため、また遺族のために葬儀屋はスムーズにことを運ぶ「段取り屋」だとしている著者は、まず要望を「お客様に聞く」という。ただ、遺族は故人の死と向き合う時間が取れず後で悔やむことがあったり、業者によっては意図的に諸々の料金を加えていなかったりするため、それらをしっかり考慮して交渉するよう助言している。ときに神妙な気持ちになり、ときに腹を抱えて笑いながら読むという、なんとも奇妙な読書体験となった。

文=清水銀嶺