「メイクで変われる」「甘えないでダイエットしなよ」とかブラック企業の上司と同じ! “コンプレックスだらけ”だから救われる、とどろんの言葉

文芸・カルチャー

公開日:2019/8/1

『未来を決めるのは私だから王子様も魔法もいらない』(とどろん/KADOKAWA)

「ブスでもそれを武器にできるほどメンタルが強くて性格も良くて人気者になれるほどのタレント性を持ち合わせた素晴らしい人がいる」という例外を盾にして普通に生きているブスが愚痴をこぼすと「努力が足りない」「卑屈」と責める世間が嫌い。

 この一文に力強く「それな!!」と思った。TwitterとYouTubeで強い支持を集める、とどろん氏による初の書籍『未来を決めるのは私だから王子様も魔法もいらない』(KADOKAWA)の話である。

相手の体を気遣うわけでもなく「整形!? そんなの甘え! メイクで変われる!」とか「脂肪吸引!? 甘えないでダイエットしなよ!」とか言う人、このご時世に「汗水垂らして足で営業しろ! パソコン!? そんなもの使って楽するな!!」て言ってきたブラック企業の上司に似てる。

 この一節にも、確かにな! と思わず笑った。

 ブスを自認し、卑屈になって、どうせ自分なんかと思っている人間はたいてい、ブスだと笑われ、後ろ指をさされて、傷ついてきた過去がある。自己肯定感は、他人から奪いとられるのは一瞬だが、回復するにはとほうもない時間と精神力がいる。それでもとりもどせないことも多い。

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 訳知り顔のアドバイスは、確かにごもっともではあるけれど、そもそも他人に気軽にブスと言ってしまえるその風潮がおかしい。いじめられるほうにも理由はある、というのと同じだ。理由はあるかもしれないが、だからといって、他人が無遠慮に攻撃していいわけがない。

〈恵まれた外見を持っているにもかかわらず「自分ブスだから……」と言っている子に関しても、本当にそう思っていると感じたらおこがましくも「仲間じゃ~ん」と嬉しがる〉と著者は言うが、どんなにはたからみて「卑下するほどブスじゃないじゃん」と思われたとしても、本人が自分の顔を好きになれなければ、どうしようもない。その苦しみから目を向けない人に「内面を磨けば顔つきも変わる」とか都合のいい言葉を並べられて、いったい誰が救われるだろう。

そうだよ。他人だから。だからこそ、認めてくれなくて良いから黙っててよ。どうせお前の家族になる未来もないし友達になることもないから。迷惑かけないから。人の努力に水を差さないで。

 これがすべてだ。美人を羨むこともあれば、愛でることもある。卑屈かもしれないけれど、全方位に攻撃的に生きているわけでもない。ただ、卑屈だったり自虐だったりする吐露も含めて、自分の力で、自分が納得できる方法で努力を重ねない限り、苦しみからは抜け出せない。好きな人が自分を認めてくれたとか、環境に依拠した自信は、それが失われたとたんに喪失するどころか、前よりマイナスになりかねない。

 だから著者には、王子様も魔法もいらないのだ。いつかいなくなるかもしれない王子様にすべてを委ねるのではなく、何があってもひとりで納得して生きていけるだけの武器を手に入れる。

世の中のみんなが認めた自分の姿を、自分も愛せるとは限らない。だから自分の好きなものを好きなだけ。それでいい。
不完全は終わらない。それが世の中なのだ。

 とことんネガティブを吐き出して、その全部をプラスに変えていく。そんなとどろん氏の言葉に救われる人は、きっと世界中にいると思う。

文=立花もも