人は歴史と感情で動いている!? 歴史上の偉人に学ぶPRの本質とは

ビジネス

2019/8/5

『すごすぎる!武将たちのPR戦略』(殿村美樹/ワニブックス)

 うどん県、ひこにゃん、今年の漢字。どれも、知らない人はいないというほど有名なムーブメントです。こんなに有名なのに、予算数万円の宣伝費しかなかったといったら信じられますか?

「PRは大きな会社がお金をかけて大々的にやるもの」と思い込んでいる人に読んでほしいのは『すごすぎる!武将たちのPR戦略』(殿村美樹/ワニブックス)です。冒頭の地方発のムーブメントは本書の著者が仕掛け人となりました。

 本書に登場するのは徳川家康、宮本武蔵、北政所などの歴史上の偉人たち。本文ではそれぞれの武将のたちのPR戦術が分かりやすく詳細に解説されています。詳しいPR戦術の内容は本書に譲ります。全体を通じて一貫しているのは「人を動かすのは歴史と情である」ということです。

 なぜグローバル化が進んだ現代社会に、歴史なのでしょうか。今さら昔のことなんて学んで意味があるのか? そうした疑問に対して、次のように著者は答えています。

そう考える方は、グローバリズムと同時進行でなにが起きているかをご存知ではない。あるいは、グローバリズムの正体を理解されていない、と言えるでしょう。(中略)グローバリズムによって存在が危うくなっているのは、固有の歴史を持ち、伝統的生活を営み続けているローカル・コミュニティではなく、十九世紀初頭の「ナポレオン戦争」によって欧州から世界に広がった「国民国家」の概念なのです。

 少し抽象的で分かりにくいかもしれません。この部分を私なりに解釈すると、どこにでもある一般化されたものはおもしろくない、ということだと思います。本書でも、リピーターになる外国人観光客は都市には興味がない、ということが書かれています。

 ニューヨーク、パリ、上海。場所は違っても、都市には共通する要素があるからです。つまり、日本である必要はないということになります。これについて著者は次のように述べています。

ヒト・モノ・カネが国境を越えて行き交う社会では、自分が生活する土地にしっかりと根づいたアイデンティティが不可欠

 PRというと、私たちは「どう伝えるか」ばかりに注目してしまいがちです。しかし、本来考えるべきなのは「何を伝えるか」。それ以前に自分たちが何者なのかをしっかりと認識していなければ、伝えるべき中身を作り上げることもできません。

 そのために必要となる前提知識が歴史であり、郷土史なのです。郷土史を知ることの重要性を分かりやすく伝えているのが、本書冒頭の著者の失敗談です。長野を訪れたとき、著者は「おやき」をPRしたらよいのではと提案してしまいました。「おやき」と聞いて、その場にいる人からは厳しい声が上がったといいます。

 なぜでしょうか? 実はおやきは要注意アイテムだったからなのです。今でこそ長野県は一つの自治体ですが、もともとは別々の体制でした。松本市を中心としたエリアには商人のプライドがあり、諏訪湖周辺は日本の精密機械工業の分野で重要な位置を占めているという自負があります。

 確かに長野の郷土料理がおやきであることに間違いはありません。しかし、この2つの地域ではおやきの作り方に違いがあるため、PRとしておやきを打ち出す場合にはどちらのおやきを出すかで揉めることは容易に想像できる、ということでした。

 こうした事例は長野県だけでなく、全国各地にある話です。特に平成に入ってからは大規模な市町村合併も行われています。郷土史を頭に入れず、合併後の市町村でPRを展開しようとしても知らず知らずのうちに関係者の「感情」を逆なでし、それが頓挫の原因となってしまうと想像できます。

 著者の手がけているPRの主な対象は、地方です。しかし、PRの本質は対象が何であれ変わらないでしょう。本書は、PRの手法を個人のブランディングに活かしたいという人にも役立つ一冊となっています。

文=いづつえり