泥酔して日本刀を振り回した有名俳優とは? 酒が入ると人はこんなに変わる!

文芸・カルチャー

2019/8/14

『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(栗下直也/左右社)

 SNSで炎上してもそれをチャンスに変えて一儲けするツワモノもいれば、叩かれてもスルーして難を逃れる人もいる。しかし、何か目立った問題を起こしてしまえば、もとの位置に戻ることは難しいのが現代の日本だ。なんとも余裕のない、大変な国になったなと感じていたところで気になったのが『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(栗下直也/左右社)だった。

 タイトルが示す通り、本書は著名人の酒にまつわるエピソード集である。歴史上の人物から作家、女優、俳優といった人が酒に酔ってあらわにした醜態がまとめられているのだ。中には、それがきっかけで人生が終わってしまった人もいるが、今より昔がいい時代だったと感じるのは、酒の席での失敗が実際にはさほど仕事に響いていない人が多いことである。

 本書で最初のエピソードを飾るのは、あの太宰治。太宰の作品は10代の頃にいくつか読んだが、どうも昨今思い出されるのはあの芥川賞を懇願した4メートルにも及ぶという女々しい手紙だ。そう考えていたら、なんと著者である栗下直也氏も本書で同じことを書いていた!

 金もないのに堂々と酒を飲み、食べ、遊びまくった挙句に巻き添えにした作家仲間を置き去りにし、自分はしれっと帰って師匠宅に隠れているというオチまでつく。しかも「金を取ってくる」と言っておいてだ。これは、友人を体良く人質に置いてきたようなものである。今なら無銭飲食で被害届を出されてもおかしくない話で、ネットでも拡散されそうである。

 酒が入ると人格が変わってしまうという話も多いが、本書の中で「これはまずいだろう」と肝を冷やすのは三船敏郎のエピソードだ。黒澤明監督の作品に多く出演し、「世界の三船」とまで言われた人物には、酒が入ると毎回困った癖があったという。なんと、日本刀を振り回すというのだ。しかも模造刀ではなく真剣だったというから恐ろしい。

 仕事柄、普段から殺陣を練習することは多かっただろうが、酒席でも真剣を扱うとなれば周囲は相当緊張するはずだ。それが泥酔した状態となれば、人が死んでもおかしくない状況である。三船敏郎が日本刀を振り回すのは酒が入るとほぼ毎回だったようで、事故が起こらなかったのは奇跡かもしれない。

 筆者が個人的に意外だったのは、女優・原節子が酒豪だったという内容である。筆者が生まれるより前に引退している女優であり、小津安二郎監督の映画の中で見た程度しか情報はないが、品の良い正統派の美人という印象だ。だが、実際には相当量の酒をほぼ毎日飲んでいたというから驚く。

 ただ、原節子の場合は飲むことで明るくなり、会話が弾むというから「いい酒」の典型であろう。共演者ともうちとけるきっかけになり、周囲に迷惑がかかったという話もないようだ。昭和を代表する女優ともなると、酒にまつわるエピソードも美しいものらしい。

 ところで、筆者にとって中原中也は好きな詩人であるが、彼の酒のエピソードには愕然とする。とにかく絡むタイプだったらしい。しつこく絡む人は確かに多い。しかし、あんなに素晴らしい作品を書いた人が、酒の席で嫌な人間になるとはいかがなものか? 太宰治までもが閉口したというのもまた面白いが。

 酒で失敗し、逮捕に至ってしまった著名人もいる。『あしたのジョー』や『巨人の星』などの原作者・梶原一騎だ。梶原の場合は決して酒だけが原因ではないが、逮捕のきっかけになった事件のときは酒が入っていたという。そこから他のことまで捜査が広がり、結果的に仕事が切れることになってしまう。

 このように本書は酒をキーワードにした著名人のエピソードが集められている。今ならば大問題になることをやらかしていても、時代もあるのだろうが、その後の仕事や人間関係に大きく影響していない人は多い。思うに、普段どのような振る舞いをしているか、その後の対応をどうしたかによるものなのだろう。酔っているからといって人に大迷惑をかけることは許されないが、ちょっとハメを外す程度ならば、普段の行動や人間性で笑い話になることもある。「飲むと人が変わる」などと言われている人は、普段の自分を見直す良いきっかけになるだろう。

文=いしい