もしも、「殺されてしまう日」を何度も繰り返すことになったら……気が狂う前に、そこから抜け出せるのか

マンガ

公開日:2019/8/16

『はっぴぃヱンド。』(有田イマリ/スクウェア・エニックス)

「死」の瞬間は一度で充分だ。リセットされ、何度も繰り返される世界なんかまっぴらごめんだ。しかし、そんな「何度も死が繰り返される世界」、しかも「何度も殺されて死を迎える世界」に放り込まれた女子高生を描いた、おぞましいマンガがある。『はっぴぃヱンド。』(有田イマリ/スクウェア・エニックス)だ。

 舞台はとある田舎の村。主人公の相田茜(あいだ・あかね)は、家庭の事情で姉が住む田舎へ引っ越すことになる。その村の学校に通うクラスメイトとすぐに打ち解けた茜は、女子高生らしい幸せな日々を送る。そしてその思い出を、姉(茜の担任)に渡された学級日誌に毎日、綴っていく。姉は茜に学級日誌を渡すときこう告げた。

「ちゃんと毎日書けよ、必ずだぞ」
「サボったら連帯責任で罰。この学校の伝統、オーケー?」

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 ところが、茜は1日だけ学級日誌を書かずに寝てしまう。

 翌日、姉からサボったことを聞かれた茜は弁解しようとするが、時すでに遅し。茜は罰としてクラスメイトが自身を串刺しにする異様な光景を目の当たりにする。クラスメイトは連帯責任を負ったのだ。そして茜も、豹変した仲間に殺されてしまう。

 しかし奇妙なことに茜は死んでいなかった。無傷のまま転校初日に時間跳躍(タイムリープ)していた。そしてまた、幸せを感じていた日々が繰り返される。

 茜は物語が進んでいくうちに、時間跳躍(タイムリープ)していることに気づき始めるが、どう足掻いても学級日誌を書かない日=殺される日が訪れてしまうのだ。

 本作の恐怖は、たとえ殺されても強制的に死ぬ前に戻されるという部分にある。まるで誰かに操作され、ゲームのリセットボタンを押されているかのようである。もし自分が操作される側になってしまったら……。想像するだけで身の毛がよだつ。また作者が描く平和でファンタジーな世界観も不意に訪れる恐怖を倍増させる。「なぜいきなり!?」と思ってしまうほど恐怖と平和の世界に差があるのだ。

 ちなみに、本作は1巻だけでは謎が深まるだけだ。ぜひ全5巻を一気読みすることをおすすめする。

 なぜ茜は殺されると時間跳躍(タイムリープ)するのか。そもそも日誌を書かないだけで殺されるこの田舎の正体とは。茜は時間が巻き戻る奇怪な世界から脱することができるのか。作者・有田イマリさんによって丁寧に描かれたサスペンスホラーをぜひ堪能してほしい。

 私は、よく「記憶をそのままに時間だけ巻き戻せたら……」と考えることがある。しかしそれは恐ろしい出来事が全く起きないという条件付きだ。ホラーと時間跳躍(タイムリープ)が掛け合わさった世界観を見たいま、同じように思えない。きっとこの作品を読んだあと、私と同じように思うはずだ。

文=トヤカン