東京で起きる猟奇殺人事件の数々を描く『東京伝説』……これはただのフィクションなのか?

マンガ・アニメ

2019/9/16

『東京伝説』(平山夢明:原作、鳥山英司:漫画/講談社)

 ジョキ ジョキ ジョキ――。

 雑誌編集者をしている阿川保奈美(あがわ・ほなみ)が、不自然な物音で目を覚ましたのはとあるラブホテルの一室。バーで出会った男との情事を終えて心地良い快楽と睡魔に襲われている間に、彼女の艶めいたセミロングヘアは大きなハサミによって肩上まで短くなっていた。

“神の毛根ブッこ抜けえぇぇぇ!日本は今氷河期なんだよっ!誰も助けて貰えないんだよ!(中略)髪はブッこ抜くんだよ!でないと殺されちゃうぞ”

 切られた髪の毛、狂気じみた男の表情、到底理解できない支離滅裂な話……すぐに事態の異常さを察した保奈美は部屋からの脱出を試みる。

 車いすに乗る仮面をつけた少女と初老の執事が現れたのは、彼女が「もうダメかも」と諦めかけた瞬間だった。執事によってあっという間に火だるまにされたハサミ男は、断末魔の叫びと共に勢いよく燃えていく。翌日、保奈美は大きな屋敷にあるフカフカのベッドの上で目を覚ました。この直後に少女から下される“とある命令”によって、これまで歩んできた平凡な人生がガラリと変化することも知らずに。

“今日から貴方は私専属のライターになるの、そしてこの街の闇に潜む狂気を蒐集し、編纂する。私と一緒に……「東京伝説」を綴りましょう。”
“今一度肝に銘じなさい(中略)絶対服従の奴隷なのだと……”

 こうして、不識誘(ふしき・いざな)の下での奇妙な業務が半ば強制的にスタート。保奈美の執筆内容はスペアキーが出回っているマンションへのお試し入居、キャトルミューティレーション(動物の死体から血液がなくなる怪奇現象。1960年代にはUFOや宇宙人説も唱えられた)を信仰するカルト集団への潜入捜査、無数の穴が開いた乳房に白い幼虫が埋まっている“シャワーノズルの女”との対峙など……日に日に過激さを増していくのだった。

 この『東京伝説』(平山夢明:原作、鳥山英司:漫画/講談社)は、大都会・東京に潜む不可解な事件や「狂気」を暴き出す恐怖事件簿。幽霊や化物ではなく、生きた人間たちが引き起こすストーリーは、読み手に自らが体験したかのようなリアルな恐怖を届けてくれる。“普通の仮面”を被った狂人たちによる奇譚な物語で、好奇心をくすぐる最高のヒトコワを堪能してみては?

文=山本杏奈