幼女が「呪いのビデオ」を見て貞子と旅をする!? 終末世界で繰り広げられるホラーと癒やしのヒューマンドラマ

マンガ

公開日:2019/8/18

『終末の貞子さん』(夏見こま:著、鈴木光司:監修/KADOKAWA)

 文明が滅んだ終末世界。生き残っている人間がほとんどいない世界で、人を呪い殺すために貞子が人探しの旅をする…幼女と一緒に。日本だけでなく世界を震撼させたあの貞子が、終末世界でほのぼのと、ときに切なく、でもゾッとさせるという異色の漫画『終末の貞子さん』(夏見こま:著、鈴木光司:監修/KADOKAWA)がついに書籍化された。本作は書籍化される前にツイッターで公開され、「あの貞子が…!」「ほのぼのするホラー?」「貞子に泣かされた…」と、多くの人の注目を集めた。

 本作に登場する貞子は、鈴木光司さんの小説やそれを映像化した作品「リング」シリーズに登場する怨霊である、あの貞子だ。小説や映画を見たことがない人でも、白い服を着た女、胸元まで伸びた黒い長髪で顔を覆い隠し、テレビから這い出てきて人を次々と呪い殺す――そんなイメージは知っているのではないだろうか。

 小説で貞子は超能力を持ち、それゆえに社会から迫害をうけていた。そして、最期は貞子の不思議な力を恐れた父親の手により井戸に突き落とされ、非業の死を遂げた。貞子の恨みは呪いとなり、見たものは7日後に死ぬ“呪いのビデオ”を生み出した。「リング」シリーズでは貞子の呪いの恐怖が描かれ、貞子の呪いはビデオだけにとどまらず、さまざまな媒体を通して世界に広がっていった。呪いが広がり続け、人間がほとんど滅んでしまった終末世界。そこで、廃墟街で生きる幼い姉妹が「びでお」を再生したところから、この物語は始まる。

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 文明や人間もほとんど滅んだ世界で幼い姉妹が再生した「びでお」は、見ると7日後に貞子に呪い殺される、あの“呪いのビデオ”である。何も知らずビデオを再生してしまった姉妹。テレビからはあの貞子が這い出てきて、姉妹は恐怖し泣き叫ぶかと思いきや――「すごーい!!」と喜んだ。

「『びでお』はじめて観た!!それどころか動いてる人間久しぶりに見た。わっ、触れる!3Dってこういうこと? 昔の技術力ってやっぱ凄まじいなあー!」と、こんな感じで大はしゃぎ。姉妹は初めてビデオを見たため、ビデオがどういうものか知らなかった。貞子がテレビから出てきても、ビデオってこういうものなのだと純粋に驚いて、貞子を受け入れて「サダちゃん」とあだ名までつけて懐いてしまったのだ。

 一方、貞子は自分に恐れの感情もなく近づいてくる姉妹に戸惑う。しかし、多くの人を呪いたい貞子は、姉妹に他に人はいないのか聞く。すると姉妹は「探したら誰かいるのかなぁ、この世界のどこかに」と答え、他の人を探してみようと貞子に提案する。そうして、「まだ人が生き残っているのなら、全員呪いたい」と思っている貞子と、“呪いのビデオ”も貞子のことも何も知らない姉妹は、一緒に人探しの旅に出ることになる。

「貞子」は呪いのビデオから出てくる怪物。このビデオを見てしまったら最後、たとえ相手が子どもでも、1週間後「貞子」に呪い殺されるという…

 そんな貞子の呪いとは裏腹に、旅の道中はほのぼのとしている。姉妹にとって貞子は一緒にいてくれる人、遊び相手であり、安心しかないわけである。貞子もそんな姉妹に超能力で毛布をかけてあげたり、プロジェクションマッピングで楽しませてあげたりする。絵の可愛らしさもあって、姉妹と貞子のやりとりは微笑ましくて癒やされる。だが、やはり貞子の目的は呪いである。仲良くなっても、優しくされても、世界の最後に生き残った姉妹を貞子は…。

 貞子だから怖いけれど、ほんわかする異色のホラー&ヒューマンドラマだ。本書を読み終えたら、少しだけ貞子を愛おしく思えるはずだ。

文=なつめ