フランスの地方に学べ! 子育て世代が住みやすい街や村の魅力とは?

社会

2019/9/3

『フランスではなぜ子育て世代が地方に移住するのか: 小さな自治体に学ぶ生き残り戦略』(ヴァンソン藤井由実/学芸出版社)

 日本では少子高齢化が大きな社会問題となっています。とくに、少子化については将来の社会保障費の担い手不足の問題とも絡んで、早急な対策が必要です。このような少子化の主な指標に出生率があります。低迷する日本と違い、フランスは一時期落ち込んでいた出生率が見事に回復しました。これにはいくつかの理由がありますが、子育てしやすい環境を社会全体で培ってきた結果であるといわれています。

 ここで注意したほうがよいのは、子育てに優しい環境は、子どもを持つ家庭だけに関わる問題ではないという点です。親子の生活が充実していることだけではなく、より一般的に、女性が活躍しやすい社会でもあり、高齢者が住みやすい社会でもあるのです。とくにフランスではパリのような大都市圏より、地方都市や村落地域のほうがその環境に恵まれているため、移住を希望する子育て世代が増える傾向にあります。

 1980年代からフランスに住む著者による『フランスではなぜ子育て世代が地方に移住するのか: 小さな自治体に学ぶ生き残り戦略』(ヴァンソン藤井由実/学芸出版社)は、子育て環境についてのフランス社会の制度について、地方都市や村落の実例に基づいて鮮やかに解き明かしています。全体の構成は、日本社会の抱える問題点の指摘(第1章)から入り、フランスの地方が元気になるシステムの特徴(第2章)が述べられます。そして、過疎から抜け出し人口増に転じた5つの地方について、それらの対策の特徴が述べられる(第3~7章)のです。最後に、このようなフランスの地方から日本が何を学べるのか(第8章)が明確に示されます。

 それぞれの章では、簡潔でありながら具体的で客観的なデータをもとにした、高密度な内容が論じられています。叙述のスタイルには無駄がなく、まるで教科書を読んでいるような気持ちになるかもしれません。たとえば、日本の地方の衰退プロセスついて書かれた第1章では、戦後の都市政策の歴史的変遷について、コンパクトに構成された文章の中に鋭い指摘が見られます。第2章以降のフランスについて紹介される部分についても、一読すれば、地方行政の担当者の選出の仕組みとその意識について、日本との相違が明快にわかるのです。

 著者が取り上げる5つの事例についても、子育て環境とその地方に特徴的な施策が紹介され、地方活性化に役立つ代表的なモデルが網羅されています。たとえば、六角形をしたフランスのほぼ真ん中にある、中央高地の山間村ポンジボーの例では、子育て環境と同時に高齢者の支援策に注目するのです。また、フランス北西に位置する大西洋岸の漁村バシュルメールの例では、地場産業と観光業の関係について述べられます。バシュルメールとはほぼ点対称の位置にある、南仏の農村カドネの例では、移住してくる子育て世代への支援策の現状について知ることができるのです。

 このような村落での施策と同時に、中心市街地の再生についても目が向けられます。かつては賑わいを見せた商店街が衰退して、シャッターを閉じたままの店舗が目立つようになる「シャッター通り」問題はフランスにもあるのです。南西部にある人口2万人クラスのビアリッツ、西部の4万人クラスのサンブリューなど、規模に応じた施策の例が示されます。また、ベルギー国境に近い、北部のシャルルヴィルメジエールの首長は、マクロン第25代フランス大統領のかつての上司です。本書では最後の例として、この地で展開される斬新な活性化策も紹介されるのです。

 このような例に見られるフランスでの子育て環境改善の施策を日本の現状と比べてみると、両者はコインの裏と表のような関係にあることがわかります。つまり、日本の現状をひっくり返すと、対照的なフランスの魅力的な事例になるのです。ということは、ひっくり返せばよいわけです。もちろん、フランスの地方で上手くいったからといって、それがそのまま日本で通用するとは限らないでしょう。しかし、対照的な例を知ることで、現状の問題点と改善の方向性はわかるはずです。国民性の違いなどはたしかにありますが、本書から人口増加対策を通じた日本の地方都市や村落地域を活性化するヒントを得ることは充分にできるはずです。

文=sakurakopon