顔中に豹柄の刺青。特異な容貌で犯罪を重ねる男の秘めた“死命”とは――

文芸・カルチャー

2019/9/1

『ラストナイト』(薬丸岳/KADOKAWA)

 薬丸岳さんといえば、2018年に映画化された『友罪』でも脚光を浴びた作家。薬丸さんが手がける強烈な印象の作品には、人生の光と影が描かれている。本作『ラストナイト』(KADOKAWA)もそうだ。読者である私たちは彼の作品を通じて人生の歩み方や尊さを学ぶのだ。

■顔に豹柄の入れ墨――男はなぜ罪を犯し続けるのか?

 主人公・片桐達夫は59歳の初老の男。びっしりと顔に彫られているのは、豹柄模様の入れ墨。周囲に、威圧感と恐怖を与える。これまでに4度の服役を繰り返し、人生の半分以上を刑務所で過ごしてきた片桐は、5年の服役を終え、シャバに出た。

 出所した片桐が向かったのは、友人の菊池が営む居酒屋。仕事中の事故で片手が義手になり、しかもどこか動物園の獣を思い起こさせるような独特な雰囲気の片桐を、周囲は厄介者だと思っている。しかし、菊池はどうしても片桐のことを根っからの悪人だとは思えなかった。なぜなら、片桐が初めて罪を犯したのは、菊池の妻を暴力団員から守るためだったからだ。

 一時は結婚し子どもにも恵まれた片桐はその事件を機に、坂を転がり落ちるように転落人生を送るようになる。離婚してからは一日中酒をあおり悪い連中とつるむようになった。そして、顔に入れ墨を入れた後には誘拐事件を起こし、逮捕される。8年の実刑判決を終え出所してからも、罪を犯し続けている。

「なぜ、あいつは罪を犯すのか」――そう考えた菊池は家族や仲間に囲まれることなく孤独に死んでいくであろう片桐の未来を案じ、彼に新しい幸せを見つけてほしいと願うようになる。だが、そんな祈りを抱いていた矢先、菊池にとって信じられないような事件が飛び込んできて、物語は意外な方向へと展開していく…。

 旧知の友人や担当弁護士、娘などが自身の人生を織り交ぜながら語る片桐というひとりの男の素顔は、「犯罪者」という一言では片づけられない複層的なものだ。時系列の異なる全5章のストーリーがひとつに繋がった時、ひとりの男が罪を犯し続けてきた本当の理由が見えてくるのだ。

 読み手に徐々に明かされていく片桐が辿ってきた道のりは、切なく、そしてぶれない信念があるものだった。誰にも言えない覚悟を秘めた男の生き様は、あなたの目にはどう映るだろうか。

■人は「生き直す」ことができる

 本作に描かれるさまざまな登場人物たちの人生に触れると、人の一生とは一体何なのだろうとあらためて考えてしまう。赤ちゃんのときには純真無垢な心で、幸せな日々を過ごしていても、やがて小さな歪みやトラブルから人生はいかようにも変わってしまうからだ。

 しかし、自分のことを見放さないでいてくれる人がいる限り、人には変われるチャンスがある。価値観や生き方を変えることは、容易いことではない。そこには、これまでの自分が染みついている。それでも、人からの信頼や愛情を得られたら、転落してしまった自分を元に戻すことができたり、また、新たな幸せを見つけられたりするかもしれない。

 人生や生き様は、最終的には自分で決めるもの。一生を悲しい涙で満たすのか、あるいは温かい笑顔で埋めるのか、それは自らの判断にゆだねられている。本作を読み終えた時、あなたはどんな人生を歩みたいと思うだろうか。そして、あなたが大切だと思うあの人にはどんな信念を貫いてほしいと願うだろう。

文=古川諭香