『なつぞら』のモチーフになった女性アニメーターの幻の児童書が39年ぶりに復刊! その内容とは?

文芸・カルチャー

2019/9/10

『おかしえんのごろんたん』(おくやまれいこ/双葉社)

 NHK連続テレビ小説『なつぞら』は、私たちの朝の時間に爽やかな風を吹き込んでくれる。広瀬すず演じるヒロイン・奥原なつのまっすぐな姿に魅了されている人も少なくはないだろう。日本のアニメーション草創期を舞台とした物語は、大森寿美男によるオリジナル脚本だというが、実在の人物をモチーフとした描写も多い。豊かな想像力を生かして、日本のアニメーションを生み出してきた人々がいたのだ。そう思うと、なんだか、みているこちらまでワクワクさせられてしまう。

『なつぞら』のヒロイン・奥原なつのモチーフとなったと言われるのが、日本の女性アニメーターの先駆者である、奥山玲子さんだ。宮城県仙台市生まれの奥山さんは、1957年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社し、1958年に日本初の本格的カラー長編アニメーション映画『白蛇伝』の動画を担当。スタジオでは女性アニメーターのリーダーとして腕を振るい、1975年には、『アンデルセン童話 にんぎょ姫』で女性初の長編単独作画監督を担当した。また、東映動画の同僚であった高畑勲演出・監督作品では『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)の原画、『母をたずねて三千里』(1976年)の作画監督補佐、『火垂るの墓』(1988年)の原画を務めたという。そんな奥山玲子さんが1980年に「おくやまれいこ」名義で出版した児童書『おかしえんのごろんたん』が39年ぶりに復刊されることになった。この本は、彼女が自分で物語と絵の両方を手掛けた唯一の児童書作品。奥山さんはどのような作品を描いたのだろうか。あたたかいイラストに魅せられながら、子どもも大人も、物語をひもといてみてほしい。

 物語の主人公は、えっちゃん、6歳。おかしが大好きな女の子。ある日、おかあさんとケンカしたえっちゃんは、森の中で、おかしやケーキをいくらでも食べていい「おかしえん」にたどり着く。えっちゃんは大喜びで、たくさんのおかしを食べるのだが…。

 ちょっぴり毒の効いたこの物語はまるで、グリム童話。やわらかいタッチの絵で進む物語が、だんだんと恐ろしい物語へと変化していくのが、面白い。「ごろんたん」が何者かわかった時には、背筋が少し寒くなる。巻末には、奥山玲子さんの夫であり、『なつぞら』で「アニメーション時代考証」を担当している、小田部羊一さん(『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』キャラクターデザイン・作画監督他)のインタビューも収録されている。その中で、小田部さんはこんなコメントを寄せている。

「奥山は幼い頃から読書が大好きで、自分でシナリオを書き、衣装をデザインした創作劇を演出して親戚に披露していたそうです。物語の創作という意味では自分の原点に戻って取り組んでいたのかもしれません。また、奥山はもともと東北大学で教育を学んでいたので、子供たちに教え諭すという意図も少し入っているのかも知れません。ともあれ、40年も前に書かれたこの物語を、今を生きる子供たちとその親御さんたちに楽しんでもらえたら、奥山もきっと喜んでくれるのではないかと思います。」

『なつぞら』のモチーフとなった、奥山さんの素顔を知れるのが嬉しい。『なつぞら』に魅了されている人は、日本のアニメーター・奥山玲子さんのこの作品に触れてみてはいかがだろうか。ここには彼女の原点、そして、日本アニメの原点があるのだ。

文=アサトーミナミ